第77話 殺人鬼は決別を告げる
伯爵が僕の肩に手を置いた。
彼はロンと口論する首輪を指差して述べる。
「見たまえ。憐れな機械だと思わないかね」
「…………」
「半端に壊れているから、どうすることもできない。いっそ何もかもが狂っていれば、攻勢に出ることもできたのだがね。テクノニカの技術力ならば、殺戮兵器の量産も容易だろう」
テクノニカの文明はノルティアスを凌駕している。
いや、おそらく他の国々と比べても高い水準にあたるだろう。
しかし、人類保護というプログラムがあるせいで、それを十全に扱うことができない。
他国への侵略もできず、結果として国内にいる人類を家畜のように管理している。
保護すべき人類を使い潰しても、それを正常な判断だと考えているのだ。
「あれでも人工知能は、本気で人類を保護しているつもりなのだよ」
「そうですね。日頃の言動から感じていました」
人工知能は、人類の友人を自称している。
手厚い保護の下で生活を提供できていると錯覚しているのだ。
もはや間違いを指摘する者がおらず、仮にいたとしても粛清されてしまう。
そうしてテクノニカは過ちを重ねながら君臨してきた。
「人工知能にとって幸運なのは、自らの狂気を理解できない点だろう。まったくどうしようもない存在だ」
伯爵がそう語る一方で、エマが僕達の前にやってきた。
彼女は周りのバスを指差した。
「お喋りしている暇はないよ。物資の運び出しを手伝ってね。機械類は何かに使えるかもしれないから」
「すみません、分かりました」
指示に従って動こうとしたその時、ロンが僕のことを手招きする。
彼が近くの死体の首輪を示して言った。
「おーい、ダニエル。こいつが何か言ってるぜ」
僕はエマの許可を取ってから、ロンの示す首輪に近付いた。
破損した首輪はまだ機能は生きているらしい。
ノイズ混じりのウェアの声が発せられた。
「N303、あなたはテクノニカを裏切るのですか。この半年間、あなたを教育してきたのは我々テクノニカです。ここで裏切るのは、あまりに不義理だと思いませんか」
ウェアの訴えには、悲しみと怒りが込められていた。
声音に抑揚はないが、それらが感じられる言葉だった。
よほど信じ難いのだろう。
その糾弾からは、人工知能の怨嗟が感じられる。
ロンが僕に耳打ちした。
「しっかり言ってやれ。爆発したら守ってやる」
僕は頷いて応えると、首輪の前に立つ。
そして引き抜いた拳銃を構えた。
「――裏切るも何も、拉致された身ですから。僕はノルティアスの外交官です」
そう言い捨てて、首輪に向けて発砲する。
首輪が粉々になって砕け散った。




