第74話 殺人鬼は自国の事情を聞かされる
それからもエマの解説は続いた。
彼女は缶ビールを片手に、講義のように話題を切り出す。
「この世界には様々な国があるけど、ノルティアスはとても嫌われているんだ。なぜか知ってる?」
「いえ、聞いたことがないです」
初めて知った情報だ。
外交官になった後、各国のことは少しだけ学んだが、ノルティアスの評価については盲点であった。
殺人鬼が支配しているということくらいで、本当に最低限のことしか教えてもらっていなかったのだ。
(嫌われる理由か……)
僕は提示された情報を噛み砕いて考える。
ノルティアスがよく思われていないのは、別に不思議なことではなかった。
殺人鬼の国は、本来なら資源に過ぎない人間が統治している。
価値観が大きく異なる他国からすれば、あまり認めたくない体制ではないか。
僕はそういった推測や事実をエマに伝える。
彼女は指を左右に振ってみせた。
「理由としては不十分だね。もう少し踏み込んだ答えがほしいな」
「ではなぜ嫌われているのですか?」
「侵略の理由を与えると、無断で領土に踏み込んで殺戮するからなんだ。殺しそのものが動機だから容赦がない」
「白兵戦という観点で考えてもトップクラスだ。他種族の参入を拒まず、国の文明もよく進んでいる」
前の席に座る伯爵が振り向きながら発言した。
先ほど施設から出る途中に聞いたのだが、伯爵はノルティアス所属となったらしい。
ウォーグラトナの上層部と方針の違いから喧嘩をして、一悶着の末に殺人鬼となったそうだ。
その際、ウォーグラトナが大打撃を受けたという。
ノルティアスの蹂躙を受けて、現在は領地縮小しているとのことだ。
昨今では他国の攻撃を凌ぐので精一杯になっているらしい。
(ウォーグラトナの被害は、ノルティアスの策略とも取れるのか)
些細な争いを過熱させて、凄惨な殺し合いへと発展させる。
平和主義とは真っ向から対立するスタンスであり、まさに殺人鬼の所業だった。
これがノルティアスの特色なのだろう。
「だからどの国もノルティアスには不干渉を貫くんだ。関わるだけで災厄となりかねないからね」
「しかし、此度はそれをテクノニカが破った」
伯爵は沈鬱な表情で述べる。
彼の双眸からは、如何なる感情もはっきりとは読み取れなかった。
エマは空になった缶ビールを置いて呟く。
「外交官の拉致なんて前代未聞だった。狂ったAIはボーダーラインすら分からなくなったようだね。よほど老朽化が進んでいるらしい」
「その報いを俺達が与えるってことさ」
話題はこれで終わりとばかりに、ロンは獰猛な笑みで言うのであった。




