第73話 殺人鬼は事情を知る
施設を出た僕達は、装甲を張り付けた数台の改造車両で移動する。
ロン達の他にも五十人ほどの殺人鬼がいた。
彼らが警備のゴブリンを虐殺したのである。
ちなみに今回の戦闘での死者はいなかったらしい。
彼らは愉快そうに合唱し、楽器を弾きながら場を盛り上げている。
中にはゴブリンの首を串刺しにして掲げている者もいた。
あまりに野蛮な光景だが、助けてもらった立場なので文句を言うこともできない。
車内は狂気に満ち溢れていた。
そんな喧騒の中、僕は隣に座るエマに尋ねる。
「どうして僕を救出することになったのですか」
「気になる?」
「はい。どうしても納得できないので」
僕は彼女の顔を見ながら頷く。
するとエマは指を立てながら説明してくれた。
「端的に言うと建前だね。今回の救出作戦は、テクノニカ侵略の言い訳なんだ」
「言い訳ですか」
「うん。ノルティアスの殺人鬼は、常に標的を求めている。できるだけ国内や荒野で解消しているけど、それだけだと足りなくなってくるんだよ」
エマは手持ちの缶ジュースを開封する。
それは有名メーカーのビールだった。
彼女は一口飲んでから話を続ける。
「君を助け出すついでにテクノニカを攻撃できる。そう伝えたら、これだけの外交官が協力してくれたよ」
「皆さん獲物に飢えているのですね」
「そうじゃなかったら殺人鬼なんて呼ばれないよ」
エマは少し皮肉を利かせて言う。
彼女の説明は、とても納得のいくものだった。
同乗する外交官が大いに盛り上がっているのも当然のことだ。
彼らにとっては滅多にない外国への侵攻である。
大義名分を得て踏み込める機会は滅多になく、それを遠足のように楽しんでいるのだった。
確かに狂った集団だ。
自他共に殺人鬼と認めるのも当然のことであった。
ここにいる者達は、僕の身を案じてなどいない。
たまたま殺戮の捌け口を見つけて、その理由に僕の救出を添えただけなのだ。
別にそれに対して怒ることはない。
どういった理由であれ、僕を助け出してくれたのだ。
感謝する他なかった。
別に気遣いなど最初から求めていない。
そう考えていると、後ろの席からロンが耳打ちする。
「周りはあんな感じだが、俺達はダニエル救出が優先だったからな」
「ありがとうございます」
僕は微笑して頭を下げるのだった。