第72話 殺人鬼は解放される
僕はそっと首を撫でる。
もう命を脅かす装置は着いていない。
急に爆発することも、人工知能に命じられることもないのだ。
それが分かっただけでかなりの開放感があった
結局は伯爵による力技で解決だったが、最も堅実なやり方だろう。
文句などあるはずもない。
僕は伯爵に頭を下げて礼を言う。
「ありがとうございます。解除に困っていたところでした」
「クソッタレのAIは、仕事をこなしても失敗してもダニエルを殺すつもりだったのさ」
ロンが嫌味たっぷりに補足した。
まだ根に持っているようだ。
よほど彼にとって許し難いものだったのだろう。
ロンの言葉に伯爵とエマがそれぞれ反応する。
「ふむ。それはいけないな。彼の努力に対する侮辱ではないか」
「上司として駄目な態度だね」
二人もテクノニカのやり方には否定的みたいだ。
ロンは僕の肩を叩いて話をまとめる。
「まあとにかく、無事で良かったぜ。よく死なずに頑張ったな」
「はい」
これで僕はテクノニカから抜け出せるようになった。
悔いは一切ない。
ノルティアスは僕の救出に来たと言っているので、このまま彼らに付いていけば帰還できるのだろう。
施設の復旧はもはやどうでもいい。
処分を下すウェアがいない以上、僕には遂行する義務は存在しなかった。
僕達はそのまま施設の出口へと向かう。
途中で伯爵に尋ねた。
「外の戦いはどうなりましたか」
「当然、我々が圧勝したとも。強襲という形だった以上、ゴブリン程度に負けるはずがないよ」
ここに三人が来た時点で分かっていたが、施設を警備していたゴブリンは殲滅したそうだ。
身体能力では優位に立っていたものの、殺人鬼という相手が悪かった。
ノルティアスの外交官は、人体を切断されても自力で回復するような集団だ。
さらに快楽殺人という習性を持ちながらも、理性的と判断されて国家のエージェントとして抜擢されている。
計画的な攻勢に出た場合、恐るべき暴力を発揮するのだ。
たとえゴブリンだろうと敵う相手ではなかった。
「これからどこへ向かうのですか」
「テクノニカの首都だね。君がおそらく生活していた区域だ」
伯爵が説明する。
彼は優雅な動作で髪を撫で付けると、薄い笑みを見せながら言葉を続けた。
「第一目標である君の救出は完了した。あとはメインディッシュをいただくというわけだね。いやはや、心が躍ってしまうな」
「全面戦争ということですか」
「そうなる。半年間で愛着が湧いたのなら君抜きで実行するが、どうしたいかね」
伯爵の目が僕を窺うように見た。
瞳の色には少なくない期待が込められている。
僕はその視線に頷いてみせた。
「愛着はありません。徹底的に破壊しましょう」




