第70話 殺人鬼は生死を迫られる
(業務を遂行しても無視しても死ぬのか)
僕は非情な現実を直視する。
ウェアは容赦がない。
とにかく業務が優先で、僕の犠牲など関心がないようだった。
むしろ積極的に死ぬように仕向けている気さえする。
ロンが大きくため息を洩らして、見下した目で首輪を一瞥した。
「テクノニカは最低な国だな。人間の友人を自称して、保護を謳いながらも使い潰すってわけか。これだから他国に見下されるんだぜ」
「侮辱をやめなさい。これは必要な措置です。国外への人材流出は禁則事項であり、それを未然に防ぐのが我々の役目です」
「役目のためなら外道になるってか。機械には心がないから楽そうだな」
ロンの嫌味は露骨だった。
人工知能への嫌悪感がありありと表されている。
もし僕という人質がいなければ、とっくに破壊を試みているだろう。
それをしないのは、彼に残った理性が歯止めを利かせているからに違いない。
ウェアは尚も僕を説得する。
「N303、業務遂行後にあなたには上級クリアランスが発行されます。テクノニカのために殉職する覚悟を見せてください」
「構うことはねぇよ。こいつはクソだ。融通の利かない壊れたAIだ。死んだ後の昇級なんてどうでもいいだろ」
ロンの言う通りであった。
僕は死後の扱いなんて興味ない。
ここからどうやって生き残るかだけを模索している。
だからウェアの説得などまったく意味がなかった。
こちらの心情を察していないのがよく理解できた。
(迂闊な一言で殺されかねない。考えるんだ。ここから上手く逃げ出さなくてはならない)
制御盤の前に立つ僕は頭を働かせる。
施設を復旧した場合、首輪が爆破されるまでに三十秒間の猶予がある。
そこを狙って首輪を解除するのが妥当だろう。
とは言え、構造も把握できていない状態でそれをするのは困難だ。
解除を試みた段階で、ウェアが遠隔操作で爆破する可能性も高かった。
それに施設が復旧すれば、各設備をウェアがコントロールできるということだ。
仮に首輪が解除できたとしても、脱出は困難である。
ウェアは不当に国を抜けようとする僕を決して許さない。
どんな手段を使ってでも抹殺しようとする。
現状を考えると、首輪の解除や施設からの脱出を選択するのは、あまりにも無謀な気がした。
(やはり交渉で言いくるめるしかないのか)
最終手段であったが仕方ない。
話術は僕の得意分野だ。
意識の混乱は、人工知能にもある程度は有効だろう。
賭けになる部分が大きいので、あまり頼りたくはなかったものの、最も生存率の高い選択肢であった。
そう考えた僕が話し出そうとしたその時、制御室に入ってくる足音が聞こえてきた。
同時に二人分の声が発せられる。
「事情は聞かせてもらったよ。困っているようだね」
「穏便に進めたかったけど、これは無理そうかな」
入口から現れたのは、吸血鬼スィーカー伯爵と殺人鬼のエマだった。




