第68話 殺人鬼は同僚の心境を知る
ロンは手を打って気分を切り替えた。
彼は懐かしい飄々とした調子でウェアに話しかける。
「まあ、細かいことは置いておこうぜ。俺達は領土奪還を手伝ってやったんだ。こっちの要求も呑んでくれよ。それが筋ってもんじゃないか」
「…………」
ウェアは黙り込む。
何か考えているのだろうか。
このように無言になるのは非常に珍しい。
大抵の受け答えは間を置かずにするはずだった。
ロンの主張に反論する言葉が見つからないのだろうか。
改めて考えると、人工知能にとっては相手の生死与奪を握った状態での対話が基本だった。
制約がない相手とのやり取りは苦手なのかもしれない。
特にロンなどは曲者の筆頭だろう。
人工知能からすれば、話しづらい対象と思われる。
ロンは僕の背中を叩くと、制御室を指差した。
「さあ、行こうぜ。業務が残っているんだろう? 諸々の話はそれが済んでからでいい。人工知能様に急かされるからなぁ」
「……そうですね」
僕達は制御室に踏み込む。
先ほどのゴブリンのせいで室内は至る所が破損していた。
床に開いた穴に落ちないように気を付けて部屋の奥へと進む。
途中、沈黙を保っていたウェアが発言した。
「ノルティアス外交官。あなたの発言を侮辱と解釈します」
「とんでもない。誤解だ。俺はテクノニカを敬ってるぜ。他国の人員を無許可で奪っておきながら、偉そうにできる図太さには頭が上がらねぇよ」
ロンはすぐさま皮肉を返す。
軽薄な口調で分かりづらいが、彼の表情は明確な苛立ちを訴えていた。
ほとんど殺気に近い雰囲気を漂わせながら、僕の着ける首輪を睨んでいる。
その様子から彼の心境を察する。
(僕の扱いに怒っているのか)
ロンは失踪した僕の身を心配していたのだ。
そして半年の費やして、こうして救出に来てくれた。
おそらくその想いに偽りはない。
共に行動した時間は短いが、ロンなりに僕のことを大切な存在だと考えていたようだ。
だから本気で怒っている。
対するウェアは冷淡な対応を崩さない。
「危険因子の捕縛と研究は、テクノニカの重要課題です」
「知るかボケ。プログラムの暴走を正当化するなよ」
ロンがついに首輪を掴んだ。
強引に引っ張られて僕はよろめく。
それすら気にせずロンは低い声で言う。
「あんたらはノルティアスの殺人鬼に喧嘩を売った。半年もの間、こっちの抗議を無視しやがった。その代償は高く付くと思えよ」
脅しであるのは明白だった。
ロンはテクノニカという国に宣戦布告を行った。
冗談で言った風には見えない。
彼は本気で何らかの制裁を下すつもりだろう。
僕は一触即発の空気を感じ取る。
しかし、肝心のウェアは意に介さない様子で僕に命じた。
「N303、業務続行です。奥の制御盤の前まで移動してください」
「チッ、聞こえないふりか……」
ロンは舌打ちする。
僕は何も言うことができない。
ただウェアの従って歩くしかなかった。




