第67話 殺人鬼は再会する
僕は反射的に飛び退くと、片手でナイフを構える。
切断された腕が痛むが、そんなことを気にしている暇はない。
相手はロンだ。
彼は竜人化の能力を持つ。
ゴブリンの集団を単独で蹂躙するほどの実力者なのだ。
真っ向勝負では太刀打ちできない相手である。
ロンは僕の反応を見るとおかしそうに笑った。
「おいおい、何を身構えているんだ」
「……僕を殺すつもりですか」
「どうしてそう思う?」
「僕は拉致されて半年間が経っています。ノルティアスから除名されても不思議ではありませんし、敵国に寝返ったと判断される場合も考えられます。現状、助けるメリットがありません」
「ふむ、妥当な意見だな。俺も同じ立場ならそう考えそうだ」
ロンは納得したように頷く。
気が付くと彼の片腕は人間のそれに戻っていた。
(戦う気がないのだろうか)
いや、そう思わせるための行動かもしれない。
僕は気を緩めずに彼の一挙一動を注視する。
対するロンは、こちらを警戒する様子もなく話を続けた。
「結論から言おう。ノルティアスはあんたの救出に来たんだぜ」
「本当ですか」
「いや、うん……まあ本当と言っちゃ本当だが、素直に肯定できないところでもあるな」
ロンは途端に曖昧な答え方をする。
とても不安な反応だが、文句を言える立場でもなかった。
僕はますます困惑する羽目になる。
(ノルティアス側は何を考えているんだ?)
まさか本当に僕を救出するために、はるばるここまで来たのか。
そんなはずはないと思う。
僕は新人の外交官だ。
国益という観点で考えた場合、わざわざ救い出す意味がない。
ノルティアスはそこまで外交官の命を大切にしている風ではなかったので、尚更に不可解であった。
ロンの言葉に惑わされていると、ウェアが冷徹に発言する。
「N303、異国民との会話を禁じます。すぐに業務を遂行しなさい」
「お? この声は人工知能だな。すっかりテクノニカの文化に染まっているじゃねぇか」
ロンが僕の肩を叩いて、続いて首輪に軽く触れた。
少し引っ張られる形になるが別に苦しくはない。
ロンは首輪に向かって話しかける。
「人工知能さんよ、安心してくれ。俺はそっちの邪魔をする気はない。信用してくれるかい」
「ノルティアス外交官。あなたはテクノニカの領土を侵犯しています。即座に立ち去りなさい」
「そんな悲しいことを言うなよ。あんたの部下は片腕を切られちまったんだ。このままだと、任務とやらを成功させる前に死ぬぜ?」
「N303は吸血鬼由来の再生能力を持っています。業務遂行に支障は来たしません」
ウェアは事務的に反論する。
口調が変わったわけではないが、なんとなく苛立ちが感じられた。
こうした気さくな口調で逆らってくる人間が基本的にいないからだろう。
しかし、それを処罰することはできない。
なぜならロンは他国の外交官であり、ウェアには攻撃手段が存在しないからだ。
ロンは小さくため息を洩らすと、僕の耳元に口を寄せた。
「随分と強情な上司だな。ストレスで胃に穴が開きそうだ」
彼は聞こえよがしにぼやくのであった。




