第65話 殺人鬼は難敵と遭遇する
悩む間にもウェアからの催促は続く。
「前方の装置の前に立ってください。復旧の手順を伝えます」
「はい、分かりました」
僕は首輪の感触を意識しながら頷く。
無力な自分を再確認させられるのは良い気分ではない。
あと一手が足りずに届かないもどかしさを痛感していた。
しかし、すべては自己責任である。
誰かに落ち度を押し付けられるわけではない。
その時、目の前の床が砕け散り、そこからゴブリンが飛び出してきた。
異様に長い腕を伸ばして僕を掴もうとしてくる。
僕は寸前で飛び退くことに成功した。
背中を壁にぶつけながらもゴブリンを観察する。
這い上がってきた個体は腕が長く、代わりに脚が短かった。
素早く動くことには適していないだろう。
ただし全身を余すことなく鍛えており、まるで鎧のような筋肉を付けている。
通常のゴブリンの数倍の筋肉量だ。
単純なパワーもそれに比例すると考えていい。
僕は素早く身を翻すと、近くにあった機械の陰に隠れる。
その直後、立っていた場所を何かが通過していった。
壁に激突してめり込んだのは壊れた機械だ。
根元から引き千切られた痕がある。
怪力に任せて投げ付けてきたらしい。
「N303、早く施設を復旧しなさい」
「敵が来ました。それどころではありません」
僕はウェアの指示に反論しながら動き出す。
姿勢を低くして、なるべく音を立てずに走った。
ゴブリンの怒声と破壊音から場所を考えて、相手の視界に映らないように意識する。
(極度の怒りで理性が飛んでいる。あれでは意識の混乱も効きにくい)
僕の得意技は、相手の知性が働いているから通用する。
怒りを抑え込むやり方も一応はあるが、確実に成功するわけでもないのでハイリスクだった。
あのゴブリンは肉弾戦に特化している。
正面からぶつかれば間違いなく負けるだろう。
筋肉のリミッターを外しても怪しい。
もし脳か心臓を吹き飛ばされれば死ぬのだから、奇襲や不意打ちを使って始末するのが最適解だった。
少なくともあのゴブリンがいる限り、施設の復旧作業はできない。
放っておくと復旧に必要な機械まで破壊されるかもしれないので、どうにか排除しなければいけなかった。
(もう手段は選んでいられないな)
僕は物陰からゴブリンを目視すると、単発式のグレネードランチャーを構えた。
現在、外はノルティアスの襲来で騒ぎになっている。
火器を使っても問題ない。
僕はゴブリンが背中を見せた瞬間に発射した。
撃ち出された弾は狙い違わず直撃する。
爆発が部屋を揺らした。




