第64話 殺人鬼は懸念する
室内は樽や木箱が満載になっていた。
制御室はただの食糧庫として使われているらしい。
機械を使わないゴブリン達からすれば、ここはただの部屋に過ぎないのだ。
「部屋の奥へ向かってください。そこで首輪を使います」
僕はウェアの指示に従って動く。
ゴブリンの不意打ちに気を付けながら進んでいった。
保管された食糧のせいで死角が多い。
どこかに何者かが隠れている感じはしないが、注意するに越したことはないだろう。
僕は外の騒音を聞きながら考えを整えていく。
(こうなったらすぐに施設を復活させよう。外交官の反応次第で行動を切り替える)
結局、現状可能な行動は限られている。
人工知能に言いなりという前提を覆せない限り、僕はテクノニカの利益のみを追求することになる。
自由に行動できているように思えて、敷かれた線路を進んでいる状態だった。
(外交官とは可能な限り接触しない。もし攻撃されたら皆殺しにする)
友好的だった場合は合流したいが、それはウェアが許さないはずだ。
余計な争いに発展しかねないことを考えれば、ここは顔を合わせないのが最善である。
すべては首輪のせいだった。
これのせいで僕は縛られている。
(自力で解除するか、ウェアを説き伏せるしかない)
実質的にこの二択だろう。
さらに前者はまず不可能であった。
僕に専門知識は無く、解除を試みていると悟られた瞬間に爆破される。
あまりにも危険すぎる行為だった。
(では施設の復旧を交換条件に、身柄の解放を提示してみるか)
ウェアを説き伏せて、なんとか首輪を解除させるのが無難と言えば無難だ。
何も閃かなかった場合、この作戦でいくしかなかった。
テクノニカからすれば、僕を逃したところで損失は皆無だ。
新たにこの施設へ人員を派遣するのはコストがかかり、実際に今回だけで甚大な被害が出ている。
いくら使い捨ての人間とは言え、人工知能達も損害を無視できないはずだった。
目的達成を餌にすれば、交渉も成功するのではないか。
(しかし、融通が利かずに即時爆破されるリスクもある)
人工知能は狂っているが、原則としてプログラムに従っている。
不正規の方法で離脱を狙う僕を、問答無用で処分する恐れがあった。
まさか直接確認するわけにもいかない。
交渉は賭けになるし、あまりにも不安定すぎる。
あくまでも最終手段だと考えておくべきだ。
色々と頭を悩ませていると、ウェアが冷淡に指摘する。
「N303、よそ見は厳禁です。業務に集中しなさい」
「すみません」
僕は棒読みで謝った。
そして、忌々しい首輪に触れる。
(自前の再生力で爆破に耐えられないだろうか)
おそらく無理だ。
首が千切れ飛んで死ぬ。
たとえ筋肉のリミッターを外しても意味がないだろう。
(爆破の衝撃を小さくしなければ話にならない)
生憎とそんな手段は持ち合わせていなかった。
僕に特殊能力があれば良いのだが、そこまで都合よくいくはずがない。
現実はどこまでも非情であり、持たされた手札で戦うしかないのだ。




