第63話 殺人鬼は判断に迷う
(なぜここに彼らが?)
僕はゴブリンを交戦する殺人鬼達を見る。
誰もが喜んで武器を振るっていた。
屈強なはずのゴブリンが恐怖している。
勇敢な個体は率先して立ち向かうが、銃火器で蜂の巣にされるか、刃物で滅多刺しになっていた。
殺人鬼達は満身創痍だが、歩みが遅れることはない。
彼らは様々な技術や能力で不死性を得ている。
それらは完璧ではないものの、致命傷を受けても回復できるだけのスペックがあった。
純粋な身体能力ではゴブリンの圧勝している。
しかし、死にづらさという観点で殺人鬼が有利だった。
(おそらくノルティアス側が勝利するだろう。十分以内には施設に辿り着く)
ノルティアスはゴブリンと戦争中なのだろうか。
事情は分からないが、僕にとっては幸運なことだ。
おかげで四色のゴブリンと戦う手間が省けた。
両者の殺し合いを眺めていると、首輪からウェアの声がした。
「N303、制御室へ向かいなさい。外を気にしている場合ではありません」
「彼らの動向次第では、施設奪還に支障が出るかもしれません。ここは様子を見るべきではないでしょうか」
僕は素直に従わずに意見を述べる。
これは大きなチャンスではないかと思ったからだ。
ノルティアスに戻りたい僕にとって、ここで彼らと合流できるのは大きい。
放っておいてもここまで来るはずだ。
しかし、ここで施設の機能を復活させた場合、ウェアは外交官の殺害を実行するだろう。
テクノニカの領土を無断で荒らす他国の人間だからだ。
施設の防衛力がどれほどか不明だが、彼らを抹殺できる可能性は十分にある。
それは僕にとって非常に不味い。
孤立無援の状態からようやく抜け出せそうなのだ。
絶対に逃がしたくない事態であった。
(ただ、ノルティアス側の目的は不明瞭だ。それが気になる)
位置関係で考えると、この場所はノルティアスからかなり離れている。
わざわざ遠征して攻め込むとは考えにくい。
さらにあの中に顔見知りの外交官がいなければ、僕は殺されてしまうかもしれない。
いくら故郷の国とは言え、その本質は殺人鬼の国なのだ。
向こうの思惑が分からない状態で合流するには、あまりにも危険であった。
(どうすればいい。この判断が明暗を分けることになる)
僕は様々な可能性を脳裏で吟味していたが、ウェアの声がそれを中断させた。
「業務の遂行が優先です。電力復旧とデータ送信ができれば、あとはこちらが対処します。早くしなさい」
「……分かりました」
ここで歯向かうと処分される。
結局、首輪がある限りは自己判断など存在しないのだった。
人工知能の命じるがままに動くしかない。
どうにかして出し抜かなければ。
屋外の喧騒を聞きながら、僕は制御室の扉を開けた。




