第51話 殺人鬼は業務を受ける
「調査は何人で向かう形になりますか」
「三十人編成が三グループだ。そこに護衛用のロボットが追従する」
「かなりの規模ですね」
「それだけ意義のある任務なのだよ」
男は悠々と語る。
一瞬、腕時計を気にしたのはこの後に予定があるためだろう。
上級クリアランス持ちが多忙なのは有名な話だ。
(総勢九十人が参加する業務か)
大半が業務内容を知らされていないと思う。
おそらくは国民候補や、違反行為を犯した者を使うのではないか。
相手はゴブリンだ。
大勢の犠牲が出ることが前提で選出されているに違いない。
男は明言しないが、察することはできた。
僕がこうして事前に呼び出されたのは、中級クリアランス持ちであるのに加えてノルティアス出身だからだろう。
殺しの経験を期待されているのは明らかである。
それでも使い捨てに近い扱いなのは、危険人物だと見なされているためだと思われる。
もし死んでしまっても惜しくないと考えられているのだ。
考察を重ねながらも、僕は表情を変えずに話を続ける。
「テクノニカに来てから国外遠征は初めてなのですが……」
「問題ない。君を推薦したのはウェア様だ。ノルティアスで培った力を発揮してほしい」
男の意見の後、壁の一部が回転してモニターが出現した。
画面には人間の口元を模した映像が描かれている。
管理AIウェアのアバターだ。
間もなく映像の口が動き出す。
「あなたの身体能力は加速度的に向上しています。毎日の筋力トレーニングと殺人鬼の因子が影響しているのでしょう」
薄々勘付いていたが、今回の業務はウェアの差し金らしい。
しかも僕の肉体の変容をよく分析している。
テクノニカにはプライバシーの概念など存在しないのだった。
それだけの情報が集められていることは想定の範囲なので、別に驚くことではない。
(殺人鬼の因子か……)
思い当たる節はある。
僕は殺し合いを経験するごとに成長してきた。
最初は、相手の意識をずらして攻撃する技能に目覚めた。
それを数度の戦いで確立させて、様々な応用を利かせることに成功した。
ゴブリン戦の終盤では、周りがスローモーションで見えるようになった。
五感が研ぎ澄まされてあのような状態に至ることができた。
(戦闘を繰り返していくことで、僕は殺しに適した存在へと進化してきた)
テクノニカに来てからは、過酷な自主トレーニングを繰り返している。
常人なら動けなくなるほどの過負荷を再生能力で治すのだ。
筋肉は修復するたびに強靭なものへと変貌し、さらには肉体の使い方も学んだ。
それらを殺人系の特殊業務で試すことで、確かな技能へと昇華させた。
テクノニカに監禁された半年間は無駄ではない。
僕は殺人鬼として進化し、以前まで欠けていた要素も補われている。
今の状態なら、魔術を使えるゴブリンでも素手で殺せるだろう。
殺人鬼の発生はいわば突然変異だと聞いていたが、あながち間違いではない。
客観的に捉えると、僕は異常なスピードで強くなっていた。
ふと視線を上げると、目の前に座る男が肩を震わせた。
恐怖だ。
得体の知れない殺人鬼に怯えている。
姿勢を正した僕は、頭を軽く下げる。
「分かりました。国外調査に向かわせていただきます」
「頼んだぞ。マザー様も期待している」
男は虚勢を張りながら頷いた。
その姿に僕は言いようのない憐れみを覚える。
(この人は保身を徹底している。機械の奴隷なのだ)
同情はするが、それも一つの答えだろう。
奴隷として振る舞えば、一定の地位は保証されて不自由なく暮らせる。
ましてやテクノニカ出身の人間は、外の世界を知らない。
この国の常識――異常な管理社会に疑問すら持たないのだ。
(しかし、僕は違う)
この国での生活を脱却したい。
今回の業務はまたとないチャンスである。
活かす他ないだろう。




