第5話 殺人鬼は同行者を得る
「僕は情報と即戦力が欲しい。あなたは安住の地を求めているのではないですか」
「…………」
ロンは黙り込む。
きっと図星だったのだろう。
彼の望みに関してはただの推測だったが当たっていたようだ。
事情はそれぞれ異なるものの、僕達は現状を変えたいと考えている。
その上で協力関係を結べる立場にあった。
「僕と同行すれば、一緒に殺人鬼になれるかもしれません。荒野より快適な暮らしができると思いますが」
「試験中のあんただけが招かれて、よそ者の俺は殺される可能性がある。そこはどうする?」
「ノルティアスが求めるのは、大量殺人者ですよね。それなら、あなたにも資格があると思います」
「――ほう」
ロンは意味深に笑う。
そこには僕に対する興味関心が浮かんでいた。
彼の放つ気配が変わった気がする。
ひりつくような威圧感だ。
無意識のうちに後ずさりそうになる気配を帯びていた。
僕は拳銃の狙いをずらさずに指摘する。
「あなたは殺人に慣れていますね。しかも僕より遥かに強い。きっと銃があっても敵わないでしょう」
「よく気付いたな。隠していたつもりだったんだが」
「ただの勘です」
「ははは、そいつは最高だな」
ロンは両手を広げて笑った。
無防備に見えるが、実際は殺意の塊と化している。
現在、彼とはそれなりの距離が開いている。
しかしこの間合いは無駄だろう。
たとえ僕が拳銃で不意打ちを試みても、きっと彼には勝てない。
そう思わせる何かがあった。
平和な生活を続けてきた僕と、過酷な環境で生き抜いてきたロンの違いだろう。
(この人は、人間なのか?)
一瞬、突拍子もない可能性が脳裏を過ぎる。
今は関係のないことなので、すぐに脇へ追いやって現実に意識を集中させた。
「それで、どうしますか。提案に乗ってくれますか」
僕は態度を崩さずに問いかける。
ただの一言が生死を左右する。
その事実を理解しながらも、臆さずに話を続けた。
ロンは暫し考え込む。
やがて彼は殺気を解くと、大きく息を吐いて答えた。
「あんたの案に賭けてみよう。荒野の生活にも飽きたところだったんだ。よろしく頼むよ」
「ありがとうございます。こちらこそよろしくお願いします」
僕は安堵する。
しかし、その場からは動かずに礼を言う。
ここで迂闊に歩み寄るほど能天気ではない。
最後の最後まで油断すべきではなかった。
こちらの思惑を察したのか、ロンは苦笑する。
ただし、それは先ほどまでとは違う、本当に親しげな表情だった。