第49話 殺人鬼は適応する
テクノニカに拉致されてから、およそ半年が経過した。
僕の日常はこの国で繰り返されている。
朝。
目覚めた僕は個室で待機する。
少し経って、流れてくる音声に合わせて体操を始めた。
これを怠ると処罰されるので、手を抜かずにやらねばならない。
その後、管理AIのウェアによって採血される。
モニターから伸びる管で行われるそれは、遺伝子情報を取得しているそうだ。
様々な研究や、人口増加に利用するらしい。
詳しいことは知らないが、なんとなく想像できた。
採血を終えたら食堂へと向かう。
錠剤やゼリー状の朝食は、いつも同じ色合いだった。
成分は知らないが、完璧な栄養素で構成されているらしい。
実際、この半年は健康そのものだったが、味は最悪である。
食事を済ませた僕は仕事に向かう。
機械部品の運搬や仕分けや、死体処理が多い。
その日、ウェアから命令された業務をこなすことになる。
いずれも機械がすべてできるのだが、それをあえて人間に任せるのは、労働時間を作るためだろう。
労働という行為で人間性を保っているのだと思う。
テクノニカには多様な仕事がある。
身分や居住エリアによって振り分けられているらしく、僕の知らない仕事も多い。
退屈だが安全性の高い仕事ばかりが回ってくるので、そこについては幸運と言えよう。
何時間か働くと、次は室内のグラウンドで運動をする。
夕方になったらチャイムと共に食堂に移動し、また朝と同じ食事をとる。
その後は自由時間だ。
労働で支給される金で買い物ができる。
日用品や嗜好品が用意されており、その中にはきちんとした食事もある。
これらを購入するため、人々は真面目に労働するのだ。
僕の居住するエリアでは、ハンバーガーセットが人気だった。
早く並ばないと売り切れになってしまう。
夜は速やかに個室へと戻る。
許可なく徘徊するのは違反行為だ。
何日かに一度、このタイミングで断末魔が聞こえてくる。
出歩いていた誰かが殺されるのだ。
僕は個室でトレーニングに励む。
体力の限界まで身体を鍛えてから、シャワーを浴びてベッドで眠る。
これを延々と繰り返す半年間だった。
(テクノニカでの生活にも慣れてしまったな)
それほど不自由さは感じない。
上手く立ち回れば殺される心配もなく、安全かつ健康な日々を送ることができる。
僕はテクノニカの正式な国民になっていた。
従順な態度が認められたのか、中級クリアランスも取得した。
身分的には平均で、可もなく不可もなくといったところである。
この国に拉致された当初より状況は好転していた。
日々のトレーニングで肉体を鍛え上げて、さらにその使い方も心得た。
ただし外部の情報は遮断されており、ノルティアスの動向は不明だった。
きっと僕の捜索などしていないだろう。
ただの新人の外交官だ。
犠牲を払って救い出す価値などない。
(だから僕は自力で脱出する)
あとはタイミング次第だ。
僕は管理されるだけの人間ではない。
命を奪って生きる殺人鬼なのだ。
この閉塞的な管理生活で一生を終えるつもりはなかった。




