第46話 殺人鬼は偽る
僕はウェアと名乗る相手の言葉を反芻する。
その意味の理解に努めた。
(AI……確か人工知能のことだったな)
創作物に登場する言葉だ。
確か人間のように思考する機械を指していたと思う。
このモニターは遠隔で誰かが話しているわけではないらしい。
(僕は機械の国に拉致されたのか)
だんだんと状況が読めてきた。
ゴブリンと戦っていたあの地域は機械の国とも近い。
こちらを発見した機械に僕は捕獲されたのだろう。
テクノニカについてはあまり知らない。
ただ、技術面においてはノルティアスよりも発展していると聞いている。
そういった捕獲用の機械があったとしてもおかしくなかった。
しかし、納得できる状況ではなかった。
冷静さを失わないように意識しながら、僕はウェアにこちらの事情を主張する。
「僕はノルティアスの外交官です。ここから出してくれませんか」
「それは不可能です。あなたは既にテクノニカの国民候補として登録されています。他国への移動は禁じられています」
ウェアは即答する。
経緯は不明だが、僕はテクノニカの住人になりつつあるようだ。
勝手なことをしてくれている。
しかし、この世界における人間の地位は最低だった。
攫って自国民にするのも問題ないのだろう。
こうして個室で質問の時間を与えられているのだから、むしろ待遇は良いと言える。
僕は黙って考え込むのをどう解釈したのか、ウェアは誇らしげに説明を加える。
「ご心配なく。テクノニカでは国民の幸福が約束されています。あなたも正式に国民となれば、その恩恵を享受することができます。素晴らしいことだと思いませんか」
「僕は帰らなければならない。どうすれば外に出してくれますか」
尚も主張すると、モニターからコードのようなものが伸びた。
針状の先端が僕に刺さり、電撃を流し込んでくる。
視界が白と黒の明滅に覆われて、気が付くとベッドから転落していた。
僕は手足の痺れを感じながら、なんとか起き上がる。
口が上手く閉じられないせいで涎が垂れていた。
それでも復帰が早いのは、吸血鬼の再生能力のおかげだろう。
ベッドに座った僕に対して、ウェアは冷酷に言い放つ。
「幸福の拒絶は違反行為です。国民候補として、それに相応しい行動を心掛けてください。違反行為を繰り返すと、身分を降格する場合があります」




