第45話 殺人鬼は目覚める
何か耳鳴りのような音がする。
泥の海から引き上げられるようにして、僕は意識を取り戻した。
ゆっくりと目を開け、妙な眩しさを覚えながら上体を起こす。
僕が横になっていたのは白いベッドだった。
次に辺りを見回す。
そこは何もかもが白い部屋だ。
ベッドの他にはトイレがあるのみである。
いや、よく見ると扉があった。
白一色なので同化して分からなかったのだ。
色合いはまるで違うが、牢屋をイメージさせるような風景だった。
僕は白い衣服を着ており、靴は履いていない。
そこまで観察し終えたところで、直前の記憶を思い出す。
(僕は誰かに攻撃された)
ゴブリンとの戦闘後、背後から奇襲を受けたのだ。
それで気絶して、この部屋に運び込まれたらしい。
持ち物は残らず無くなっている。
「目覚めましたね、N303」
後ろから声がした。
僕は振り向きざまに肘打ちを放つ。
しかし、それはあえなく空を切った。
壁の一部が開いて、そこからモニターが現れる。
画面には誰かの口元が映っていた。
どうやらこのモニターから声が発せられたらしい。
僕は腕を下ろして質問をする。
「その番号は僕のことですか」
「はい。あなたの管理ナンバーです。三日前の捕獲時に登録されました」
モニターの声が淀みなく回答する。
感情の起伏がなく、まるで人間ではないような印象を受けた。
しかし、それよりも気になる情報が含まれていた。
(三日間も気絶していたのか)
捕獲時というのは、ゴブリンとの戦闘のことだろう。
何らかの手段で眠らされていたらしい。
よく分からないが、少なくともここはノルティアスではないはずだ。
ゴブリンの国でもないと思われる。
彼らがこのような扱いをしてくるとは考えにくい。
現時点で判明したのは、相手がこちらの疑問に答えるという点だ。
嘘も混ざっているかもしれないが、ひとまずそのことを利用しようと思う。
「ここはどこで、あなたは誰ですか。なぜ僕を拉致したのですか」
「いずれもクリアランスを要さない質問ですね。順に回答しましょう」
声は妙な言い回しで前置きをすると、用意されていた台詞のように答えを述べる。
「ここは機械の国テクノニカ。私は管理AIのウェア。あなたがこの国に連れ込まれたのは、遺伝子情報の取得と国内人口の増加が目的です」