第44話 殺人鬼は勝敗を見届ける
杖持ちのゴブリンが白目を剥いた。
脳漿をこぼしながら崩れ落ちると、四肢を痙攣させる。
起き上がる気配はない。
額への銃撃は致命傷だった。
万が一の復活を考えて、僕はそんなゴブリンの頭部に弾丸を二度撃ち込む。
それでゴブリンは完全に沈黙した。
痙攣すら止めて地面に血だまりを広げるだけとなる。
(ようやく死んだか)
僕は杖に打たれた肩を押さえる。
骨が折れている気がしたが、数秒も経てば痛みは薄れていった。
軽く回してみるも、特に違和感はなかった。
なんとか勝てた。
多少、計算外な展開はあったが、結果としては上出来と言えよう。
不利な状況から相手を皆殺しにできたのだ。
決して悪い結果ではない。
ただし、ここはまだ戦場だ。
油断してはならない。
まずは武器の確保が最優先である。
僕は先ほど投げ捨てた散弾銃を拾った。
土で汚れたジャケットを探り、ポケットから予備の弾を取り出して装填する。
これは貴重な弾丸だ。
支給された大半はリュックサックに入れており、やむを得ず爆破してしまった。
おかげで一気に持ち物が寂しくなった。
どこかで補充しなければならない。
短機関銃も見つけたが、銃身が曲がっていた。
おそらくゴブリンが破壊したのだろう。
これでは使い物にならない。
仕方なく僕は散弾銃を手にした。
これをメインの武器にしようと思う。
ゴブリンのナイフや杖は置いておいた。
持っておいてもいいが、どうしてもかさばってしまう。
戦闘時、動きを阻害されるのは致命的だった。
僕は周囲に意識を向ける。
大局は既に決していた。
突発的に始まった戦いは吸血鬼が制しており、ゴブリンを追い詰めている。
やはり回復能力の有無は大きかったようだ。
生き残ったゴブリンは撤退を始めている。
そこに吸血鬼が追撃を加えていた。
伯爵やロンの姿もある。
ゴブリンは学習して強くなり、戦場で得た情報を持ち帰る。
ここで逃すと厄介なので、少しでも殺そうとしているのだろう。
戦場に残る吸血鬼は、負傷した者の手当をしている。
魔術で治療したり、ゴブリンの死骸の血を飲ませていた。
あれも回復方法の一つらしい。
倒れたままの吸血鬼は完全に死亡した者のようだ。
脳か心臓を潰されたに違いない。
ゴブリンは銀の武器を使っている様子はなかったので、滅多打ちにされて再生が追いつかなかったのだろう。
(そこまでされなかった僕は、きっと運が良かったのだ)
気絶だけで済んだのはゴブリン達の気まぐれである。
一歩間違えればあっけなく死んでいた。
僕はそういう世界に生きているのだ。
結果として勝ったとは言え、反省点は洗い出して直さねばなるまい。
(まずは彼らに合流しないと)
そう考えて僕は歩き出す。
数秒もしないうちに、背後から無機質な音声が聞こえてきた。
「危険因子:殺人鬼を発見。捕獲します」
僕は振り返りざまに散弾銃を構えた――否、構えようとした。
その前に何かが腹部に刺さり、痺れるような衝撃で肉体の感覚が消失した。
視界が極彩色のグラデーションで明滅してから一切の闇に染まる。
倒れた身体を担がれる。
僕は何者かの攻撃を受けたのだと悟り、意識を失った。




