第43話 殺人鬼は追い詰める
僕は片腕や胸に鋭い痛みを覚える。
見れば手榴弾の破片が刺さっっていた。
爆発で飛んできたのだ。
安全のために後退したが、それでもまだ近かったらしい。
僕は破片をつまんで引き抜く。
傷口はすぐに塞がって元通りとなった。
(どうなった?)
僕は手榴弾の炸裂した場所を眺める。
そこには千切れ飛んだゴブリンの肉片が散乱していた。
爆発の直撃で死んだようだ。
さすがにこれを耐え切れるほどではなかったらしい。
ただし、原形の残るゴブリンが一人だけいた。
仰向けに倒れているが、身体の前面に岩がへばり付いる。
すぐに岩がぽろぽろと剥がれ落ちて容姿が露わとなる。
そのゴブリンは杖を握っていた。
(魔術を扱えるゴブリンか)
おそらくは、手榴弾の爆発を咄嗟に防御したのだろう。
僕の策は完璧には決まっていなかったのだ。
やはり頭の回る個体は反応できるらしい。
杖持ちのゴブリンは起き上がる。
全身が血みどろで傷だらけだ。
片腕が千切れて欠損している。
顔面は手榴弾の破片で引き裂かれて人相が分からない。
(魔術による防御も完璧ではなかったようだ)
ゴブリンは無事な片目で僕を睨んでいた。
掠れた声で何かを唱え始める。
なんとか声を発することができるようだった。
(反撃に術を使われるのは不味い)
僕は背中に吊るしていた散弾銃を手に取ると、腰だめで発砲した。
あまり狙いを付けていなかったが、散弾は真っ直ぐにゴブリンへと突き進む。
しかし、盛り上がった地面が盾となって遮った。
ゴブリンは術を防御に回したようだ。
「これでいい」
僕はその間に接近していく。
散弾銃を撃ちながら、駆け足でゴブリンに迫った。
気絶する前と同じ手だ。
これが最善である。
念のために周囲に意識を向けておく。
増援が来ないか確かめながら距離を詰めた。
やがて散弾銃が弾切れになった。
ゴブリンはもう目の前にいる。
僕は散弾銃を捨てて、腰のリボルバーに手を伸ばした。
同時に地面の盾が崩れ去る。
血走った片目で僕を睨むゴブリンは、杖をこちらに向けて、早口で呪文を唱えていた。
至近距離から術を放とうとしている。
(早撃ち勝負か)
そこまで考えたところで、周囲の景色に異変が生じる。
極度の集中によるものなのか、すべての動きをスローモーションのように感じるようになった。
僕は引き延ばされた時間の中で思考する。
絶妙なタイミングだった。
互いの攻撃は、ほぼ同時に決まる予感した。
つまりゴブリンの術は僕に当たり、僕の銃弾はゴブリンを穿つ。
ゴブリンの魔術は僕を即死させる威力があるかもしれない。
具体的にどのような攻撃か分からないが、無防備に受けない方がいいだろう。
瞬時に判断した僕は、拳銃の発砲を急ぐのではなく、視線を右方にずらした。
そして、口を少し開けて驚く顔を作る。
まるで何が起きたかのような反応を見せた。
ゴブリンはそれに釣られて視線を横に動かす。
意識がそちらに向くのを、僕はしっかりと確認した。
刹那、僕は姿勢を低くしながら踏み込む。
片手で杖を掴んで上へと向けさせた。
ゴブリンは驚愕して慌てて抵抗する。
それすらもさらなる隙となった。
振り下ろされた杖が肩にめり込むも、僕は表情一つ変えずにリボルバーの狙いを合わせる。
引き金に力を込める。
放たれた弾丸はゴブリンの額に命中した。
脳内を存分に掻き混ぜると、後頭部から外へと突き抜けていった。




