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第4話 殺人鬼は交渉する

 眼前の男――ロンは戸惑ったように肩をすくめた。

 彼の目は向けられた銃口に注視している。


「おい、何の真似だ」


「僕の荷物を狙っていますね。視線と気配で分かりました」


 この男は親しげな言動で騙そうとしてきた。

 握手できる距離に入った瞬間、襲いかかってきただろう。


 何らかの確証があるわけではないが、視線の気配で直感的に気付いた。

 前々から人間の心の動きには敏感だった。

 しかし、まさかこのような場面で役立つとは。

 この疑似的な察知能力こそ、死刑を取り消された要因なのかもしれない。


 ロンは拳銃に注目しながら両手を上げる。

 彼は石のナイフを落として苦笑した。


「ただの一般人じゃないってことか。何者だ」


「殺人鬼の候補生です」


 僕が正直に答えると、ロンは怪訝そうな顔をした。


「なんだそりゃ。一体どういうことだ?」


「少し離れてください。それからお話します」


「用心深いな」


「こんな状況ですから」


 荒野に詳しくない僕でも、この地の住人が信用ならないのは理解できる。

 無法地帯そのものだ。

 どこの国にも属しておらず、だから平然と殺し合いが起きている。


 ロンは荒野で生き延びている人間だ。

 弱者のままでいられるはずがない。

 きっと狩る側なのだ。

 彼からは、生存に関する狡猾さを感じる。


 僕は女性から聞いた話を残らずロンに伝えた。

 その間、彼は真面目な顔で聞き入っていた。


「ふむ、採用試験か……別にありえない話ではないな。ノルティアスは人間が支配層になれる唯一の国だ」


「他の国だとそうはいかないのですね」


「ああ、統治する種族は決まっている。人間がどれだけ出世しても、末端の管理職が精々だろうな」


 ロンは苦い表情で唸る。

 そこには自虐的な雰囲気が滲んでいた。


 彼自身がそういった扱いだったのだろう。

 ノルティアスは、まだ過ごしやすい国なのだ。


(やはりこの人とは敵対すべきではない)


 僕は会話をしながら判断する。


 ロンは様々な情報を持っている。

 上手く良好な関係を保つ方が得だろう。


 それに荒野での単独行動は危険すぎる。

 いつ襲われるか分かったものではない。

 拳銃を所持しているとはいえ、あまりに不安だった。


 こうして話が通じる相手は貴重なのだ。

 僕の荷物を奪おうとしたが、説得の余地はある。


 僕は拳銃を下ろさずに話を続けた。


「一つ提案があります」


「なんとなく察しは付くが聞いておこうか」


「ここは協力しませんか。二人でノルティアスに向かいましょう」


 僕は口調を変えずに告げた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] おお、早くも殺し合いと思ったら、交渉か! 単なる殺人鬼としての適性だけでなく、交渉にも長けていそうだと判断された(※)事が、ダニエルに外交官試験を受けるチャンスが舞い込んで来た理由なのだ…
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