第39話 殺人鬼は小鬼に挑む
僕は地面を転がる。
全身を打ちながら転がった末に止まった。
頭がぐらつく上に砂だらけだ。
「……っ」
小さく呻きながらも立ち上がる。
身体のあちこちを撫でる。
とりあえずどこも折れていないようだ。
もっとも、僕には吸血鬼の再生能力がある。
手足に付いた細かい傷も、勝手に治っていった。
額から流れる血を拭い、口の中の砂を吐き捨てる。
馬車は炎上していた。
杖持ちのゴブリンにやられたのだ。
あれはおそらく魔術を使ったのだろう。
魔術についてはノルティアスで少しだけ学んだ。
特殊能力の一種で、呪文で世界に働きかけて様々な現象を発現させるのだ。
魔力と呼ばれるエネルギーを消費する上、素質に左右されるそうだが凄まじい力を持つという。
実際、遠くから一瞬で馬車を爆破させたのだから、かなりの脅威と言えよう。
僕は燃える馬車を迂回して歩く。
少し先の岩陰で、杖持ちのゴブリンがこちらを嘲笑うように見ていた。
僕の姿を認めると同時に、すぐさま呪文を唱え始める。
(二発目は不味い)
僕は走り出した。
短機関銃を撃ちながら急いで近付く。
すると、ゴブリンの前で地面が変形して壁となった。
そうして僕の撃った弾丸を弾く。
おそらく魔術で地形を操作したのだろう。
僕の攻撃は失敗したが、代わりに爆発も起きない。
呪文を唱えるという性質上、同時に一つの術しか使えないのだ。
これは狙い通りだった。
(防御するということは、弾丸もおそらく効くのだろう)
分析する僕は、銃を撃ちながら距離を詰めていく。
とにかく絶え間なく攻撃して、反撃の隙を与えないようにした。
ロンは接近戦は駄目だと言っていた。
しかし、距離を取ると爆発が飛んでくる。
遠距離から狙撃して殺せるのならそれが一番だが、僕の技量には不安があった。
ゴブリンが耐える場合だって考えられる。
結局、再生能力の優位性を発揮する間合いが最適なのだ。
(もうすぐだ)
弾切れになった短機関銃を捨てた僕は、続けて自動拳銃を撃つ。
岩の盾はもう間近にあった。
回り込んで散弾銃を連射し、頭部を破壊すれば殺せる。
その時、左方からけたまましい叫びがした。
死角から跳び付いてきたのは、棍棒を持ったゴブリンだった。
力任せの殴打が側頭部を打つ。
刹那、僕の意識は途切れた。




