第33話 殺人鬼は自問する
僕は自前のリュックサックを漁る。
そこから袋入りのチョコレートを取り出した。
ノルティアスのコンビニで購入したもので、今回の遠征に合わせて持ってきたのである。
一つを口に放り込む。
懐かしい甘さだ。
チープな感じだが、この狂った世界では心地が良い。
(僕も精神的に疲れているのだろうか)
ふと疑問に思う。
こうして平然と馬車に乗っているが、少し前までは考えもしなかった世界であった。
培ってきた常識は虚構だった。
知らされた現実は過酷だった。
ウォーグラトナからノルティアスに帰った後、僕は外交官用のホテルで生活していた。
多少の自由行動も許されていたので、何の不自由もない暮らしを送っていた。
しかし、その時間に物足りなさを感じていた。
抗議することもなく、こうして新たな狂気に踏み込んでいる。
心の疲労が判断を誤らせているのではないか。
一瞬、そんな考えが過ぎるも、判断するまでもなかった。
僕は殺人鬼だ。
狂気に馴染みつつある。
日々、真実の世界と噛み合う感覚を否めなかった。
僕は残りのチョコを仕舞うと、隣でストレッチをするロンに話しかける。
「身体の調子はどうですか」
「もちろんベストコンディションだ。今日に合わせて調整したからなぁ。機械だろうがゴブリンだろうがヴァンパイアだろうがぶっ殺してやる」
ロンが過激な発言をする。
標的の中にさりげなく吸血鬼も混ぜているが、それはわざとだろう。
きっと彼ならやりかねない。
いや、ウォーグラトナでは白昼堂々と殺害していた。
状況次第では躊躇なく実行してみせるだろう。
僕はロンの右腕に注目する。
今はただの鍛え上げられた人間の腕だ。
しかし、それが鱗に覆われた異形に変貌することを知っている。
(確か竜人と言ったな)
エマに説教された後、ロンは自分の身体について教えてくれた。
彼は竜の国にいた頃、研究者に近い役職に就いていたらしい。
奴隷として使役されていた中では、真っ当な扱いを受けていたそうだ。
当時のロンは、竜の唾液や剥がれた古い鱗、排泄物等を密かに解析していた。
それらの成分から、肉体を進化させる薬品を自作したのだという。
薬品を定期的に接種することによって、ロンは竜人と呼ぶべき新種族に至った。
ところが企みが竜達に知られてしまい、殺されそうになりながらも荒野に逃げ込んだらしい。
だから厳密にはロンは人間ではない。
竜の因子を持つ特殊な存在である。
強さを手に入れて成り上がるのが目的だったそうだ。
それを聞いたところで、彼に対する認識や態度を変えることはない。
今更、新たな事実が発覚しても大した差ではなかった。
彼とは親しい同僚としてやっていきたいと思う。
むしろ頼もしい力を持っているのだ。
良好な関係を築いていくべきだろう。




