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第32話 殺人鬼は新たな国を目指す

 吸血鬼の国ウォーグラトナへの来訪から十日後。

 ノルティアスでの休暇を挟んだ僕とロンは、現在は小汚い馬車で移動中だった。


 前方を見ると、骨の馬が馬車を曳いている。

 周囲を他にも馬車が走っていた。

 ただし、向こうは随分と豪華である。


 外装だけではなく、きっと性能面でも大きな差があるのだろう。

 こちらは荒野の道を進むだけで振動が酷いが、向こうはきっとそんなこともないのだと思う。

 他の馬車には、ウォーグラトナの吸血鬼達が乗っていた。


(種族差別が露骨だな)


 ウォーグラトナで問題を起こした僕達は、吸血鬼の仕事を手伝うことになった。

 現在は目的まで移動している最中である。

 早くも環境の差が歴然となっていた。


 こんな馬車を使うのは本当は嫌だったが、命じられたので従うしかなかった。

 ペナルティーとして同行する僕達は、立場的にも逆らえない。


(こうやって格の違いを見せつけているのだろうか)


 ノルティアスの殺人鬼という肩書きはある。

 しかし、それに対するプライドは持ち合わせていない。

 だから馬車の差に屈辱を感じることはないのだが、普通に尻が痛いのだ。

 乗り心地が劣悪で、満足に眠ることもできない。


 隣に座るロンは、変わり映えのない荒野を眺めながらぼやく。


「ちょっとヴァンパイアを殺っただけで外交問題とはな。支配種も楽じゃねぇぜ」


 その声は少し大きめだった。

 僕はボリュームを落としてロンを注意する。


「向こうに聞こえますよ」


「聞かせているのさ。どうせ連中も俺達の悪口を言っている。伯爵みたいなのは少数派なんだ」


 ロンの指摘は的を射ていた。

 最初の合流時に気付いたが、吸血鬼は僕達を毛嫌いしている。

 これ見よがしに陰口を叩く始末だった。

 別に面識はないはずだが、とにかく対等な関係でないのは間違いない。


(各国の支配種は、他の支配種を見下すか嫌っている)


 ましてやノルティアスは、本来なら資源とされるはずの人類が国を運営している。

 そして、他国と並ぶ形で外交を展開していた。

 気に入らない者は少なくないのだろう。


 ロンは手持ちの煙草を吸いながら遠い目で呟く。


「それにしても、今度は機械とゴブリンの相手か。特別手当は出るのかね」


「憂鬱ですか」


「いや、実はそうでもない。不幸なりに楽しんでいるぜ」


 ロンは皮肉を込めた笑みを浮かべた。

 その眼差しは自信に満ち溢れると同時に、箍の外れた凶暴性を覗かせている。


 僕はそれには気付かなかったふりをして座り直す。


(また他国に遠征するとは思わなかった)


 これから向かう先は機械の国だ。

 発達したコンピューターが人類を友人として保護する地である。


 事前説明によると、機械の国は隣接するゴブリンの国と小競り合いを繰り返しているらしい。

 互いに資源と土地を奪い合っているのだ。


 吸血鬼達はその紛争地帯を調査したいのだという。

 そして、疲弊した両者から利益を掠め取る算段だった。


「まあ、やってやろうぜ。上手く立ち回れば昇進だって夢じゃない。ノルティアスで贅沢な暮らしをしようじゃねぇか」


「あの国を気に入ったのですね」


「当然だろ! 文明の進歩が著しいからなぁ。悔しいが殺人鬼どもは優秀なのさ。自分達の餌場を発展させつつ、国力も固めてやがる。さっさと仕事を終わらせて帰ろうぜ」


 ロンは二本目の煙草をくわえながら言う。

 頷いた僕はペットボトルの水を飲んだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 今話もありがとうございます! >発達したコンピューターが人類を友人として保護する地 ほほう。それは楽しみ。その国では技術的特異点に達した直後か、その直前なのか。どんな国か興味が有る。…
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