第31話 殺人鬼は代償を負う
エマが小さくため息を洩らした。
彼女はロンから没収した煙草をくわえると、それを吹かしながら語る。
「優秀な殺人鬼は頼もしいけど、秩序を守れるのが大前提だ。理性を保てなければ、外交官にはなれないからね。協調性のない快楽殺人者は不要なんだ」
「つまり、ルールを守れない俺達を始末するってことかい」
「それは無いよ。処罰したところで事態が好転するわけでもないし」
エマは即答する。
ロンの質問は、僕も薄々ながら予想していた。
しかし、このまま殺されるということはないようだ。
そこまで未練はないものの、とりあえず安堵した。
「停戦協定は無事に更新できた。けれども、君達の騒動にウォーグラトナの上層部が興味を抱いてね。急遽、仕事の依頼をしたくなったそうだ」
「おいおい、こいつは嫌な予感がするな」
ロンはだらりと力を抜いて嘆く。
エマは表情を変えず、煙草を指で弾いて飛ばした。
ロンは上手くキャッチして吸い始める。
「ヴァンパイアの部隊と一緒に、とある地域の調査をする。それが君達への指名依頼であり、今回のトラブルを黙認する条件になった」
「ちなみに拒否権は?」
「あると思うかな」
エマはロンの質問を一蹴した。
そして、私物らしき手帳を見ながら説明する。
「調査の決行は十日後。一旦、ノルティアスに帰還してから出発してもらうよ。詳細はヴァンパイアの部隊から聞いてもらう」
「随分と手の込んだ処刑だな。そんなに俺達を殺したいのかね」
ロンが皮肉を飛ばすと、今度は伯爵が補足した。
「勘違いしないでほしい。我々は君達に恨みを抱いていない。その果敢な気質と確かな実力に目を付けただけなのだよ」
「ハッ、よく言うぜ」
「真面目に聞きたまえ。調査には私も参加するのだ。君達を納得させる義務がある」
「じゃあ、依頼内容をちゃんと教えてくれよ」
「いいとも。君達が満足するなら、何度でも丁寧に説明しよう」
伯爵は乗り気で頷いた。
僕達と仕事ができることを歓迎しているようだ。
ロンは小声で僕に尋ねてくる。
「ダニエル。あんたは文句ないのか?」
「いえ、別に。状況的に抗議したところで無意味でしょうから」
「模範的な回答だな! 余計に好きになりそうだぜ」
ロンはやけになって皮肉を飛ばす。
それにも構わず、伯爵は依頼の詳細を語り始めるのだった。