第29話 殺人鬼は本領を発揮する
決心すると同時に、思考が冷え切る。
身体の奥底から衝動が湧いてきた。
人を殺したいという醜い本能だ。
僕の考えが噛み合うと同時に溢れてきたのだ。
ここで逆らう理由はない。
むしろ好都合だ。
僕は今から、吸血鬼を殺す。
それが正しく、実行すべきだという確信があった。
まず僕は脱力して、自然な動作でロンとすれ違う。
そこから吸血鬼に歩み寄る。
「ぬ……?」
吸血鬼は呆けている。
困惑し、攻撃すべきか迷っていた。
僕はゆったりとした動作で散弾銃を差し出す。
「どうぞ」
「う、うむ?」
吸血鬼は首を傾げながら受け取る。
咄嗟に行動したものの、納得がいっていない。
そんな心境が視れ取れた。
畳みかけるチャンスだ。
僕は吸血鬼の向こうを見ながら指摘する。
「後ろにスィーカー伯爵がいますよ」
「何っ!?」
吸血鬼は驚愕して振り返る。
少し姿勢が崩れているのは、跪こうとしているからか。
無論、そこには誰もいなかった。
(咄嗟に伯爵の名前を出したが、悪くないな)
思った以上の効果を確認しながら、僕はリボルバーを吸血鬼の胴体に突き付けた。
躊躇いなく連射する。
二発の銀の弾丸が、彼の胴体を蹂躙した。
「ゴバ、ァッ」
吸血鬼が吐血しながらよろめく。
憎悪に染まった目がこちらを向こうとしていた。
「日照りの雨はあなたに懐きますか」
僕の言葉を聞いて、吸血鬼の動きが鈍る。
一瞬の思考。
意味不明な問いかけを理解しようとしてしまったのだ。
僕は落ち着いて照準を合わせると、さらに二発を撃つ。
今度は吸血鬼の頬と喉に命中した。
「森の砂漠が隣を潤しました」
「……っ、グッ、あ」
吸血鬼は震えながら膝をつく。
損傷が大きいせいで立ち上がれないようだった。
だから僕は、残りの弾を後頭部に撃ち込んでやる。
脳漿が弾け飛んで、吸血鬼は派手に倒れた。
被弾箇所から流血している。
再生はしない。
微かな息遣いはやがて聞こえなくなる。
念のために新たな弾をリボルバーに装填して何発か撃ち込む。
反応はなかった。
(完全に死んだようだ)
吸血鬼は拳銃で殺害が可能だと分かった。
銀の弾丸で再生を阻害しつつ、急所を破壊すればいいのだ。
上手く妨害できれば、一方的に攻撃できる。
肉体構造も人間と同じようだった。
伯爵を殺せなかったのは、おそらく再生能力が飛び抜けて高かったからだろう。
ただし、この吸血鬼が弱いだけの可能性もあるので決め付けはできない。
平均的な強さがどれほどなのか、ロンなら知っているかもしれない。
そう考えた僕は、さっそく質問しようとする。
しかし、その前にロンが肩を組んできた。
彼はどこか晴れやかな様子で言う。
「よし、これで共犯だな。一緒に怒られようぜ」