第27話 殺人鬼は同僚の本質を垣間見る
「グルアァァ……」
吸血鬼は不安げな足取りで彷徨う。
闇雲に剣を振るうも、大まかにはロンの位置を把握しているのかもしれない。
耳や鼻の動きを見るに、聴覚や嗅覚を頼りにしている。
種族的に五感が優れているのだろう。
「情けねぇなおい。さっきまでの威勢はどうした?」
ロンは煽りながら接近する。
叩き込まれる斬撃を避けながら、吸血鬼に反撃を打っていった。
的確なナイフ捌きが、吸血鬼の四肢を切り裂いていく。
動きを封じることが目的なのだろう。
ロンはこの期に及んでも一切の油断をしていない。
徹底的に自らの安全を優先し、確実に勝つための動きを取っている。
吸血鬼の四肢は傷だらけだった。
再生能力が働かないせいで、もはや満足に立てない状態となっている。
辛うじて握る剣を振るうが、やはりロンに当たることはない。
そもそも万全の状態でも命中させられなかったのだから当然だった。
「ほら、もう終わりだぜ」
ロンがナイフを往復させる。
ついには剣を握る指まで切断された。
剣が落ちて音を立てる。
吸血鬼は残る手で拾おうとした。
そこにロンがナイフを投げて、吸血鬼の手を地面に縫い付ける。
「落ち着けよ。勝負ありだ。それ以上の出血は命に関わるぜ」
ロンは諭すように言う。
吸血鬼は悔しげに唸るばかりだった。
戦いの結果は明らかで、何も言い返せないのだろう。
僕はそのやり取りを傍観しながら思う。
(命までは取らないのか)
考えてみれば、これが最善の対応であった。
向こうから因縁を付けてきたものの、僕達は外交官だ。
ここはノルティアスではなくウォーグラトナなので、支配種である吸血鬼を殺すのはたぶん国際問題になる。
その辺りを分かっているロンは、相手の無力化を狙っていたのだろう。
彼の器用さに感心していた僕だったが、そこで気付く。
注目したのはロンの横顔だ。
飄々とした微笑の中に、強烈な狂気を感じ取る。
(――殺す気だ)
それを理解した直後、唐突にロンの右腕が軋む。
皮膚を突き破って赤い鱗が生えると、腕全体が肥大化を始めた。
指先まで鱗に覆われて、爪が伸びて尖っていく。
ロンは霞むような速度で異形の腕を動かす。
原形を失った五指が、吸血鬼の頭部を鷲掴みにした。
そのまま胴体をへし折る勢いで地面に叩き付けて、轟音と共に爆散させた。




