第24話 殺人鬼は問題に遭遇する
僕とロンは街の大通りを歩く。
人々はもう平伏していない。
こちらに気付いても微妙な顔をするだけで、それ以上の反応はなかった。
彼らの中で区別があるのだろう。
あくまでも絶対的な階級差があるのは吸血鬼だけらしい。
「おっ」
歩いている途中、ロンが声を上げた。
前方の人々が慌てて道の脇に退いて平伏し始めている。
それに気付いた者達が追従していった。
瞬く間に付近の人間が残らず平伏し、通りに静寂が訪れる。
こちらに向かって歩いてくる一人の男がいた。
赤いコートを着た青年で、真紅の瞳が光り輝いている。
只ならぬ気配を帯びたその青年は、平伏する人間を足蹴にしながら進んでいた。
(あれが吸血鬼なのか?)
やや青白い肌を加味しても人間のように見えるが、周りの反応や態度からして明らかだ。
ただ、伯爵と違って粗暴な印象を受ける。
吸血鬼にも様々な性格があるらしい。
ロンが僕を道の脇に引っ張りながら、小声で注意をする。
「あまり目を合わせるなよ。因縁を付けられるかもしれないからな」
「分かりました」
ここは素直に従うべきだろう。
余計な問題を起こすべきではない。
建物の陰に並ぶ僕達は、下を向いて吸血鬼が通り過ぎるのを待つ。
「おい。そこの人間ども」
視線と共に鋭い声が飛んできた。
苛立ちと怒気を孕んでいる。
見れば、件の吸血鬼が足を止めて僕達を睨んでいた。
駄目だった。
接触を避けるつもりが、向こうから声をかけられてしまった。
さすがに無視するわけにはいかないだろう。
「ったく、いきなりかよ……」
ロンは露骨にため息を吐くと、諦めて吸血鬼の前に進み出た。
彼は気楽な態度を装って話しかける。
「何か用かい? ナンパなら他をあたってくれ」
「ふざけているのか、貴様」
「否定はしないさ」
ロンは肩をすくめて応じる。
吸血鬼の殺気混じりの視線を浴びようとお構いなしだった。
彼の胆力は常人の域を脱している。
その背中を見守る僕は、人間ではない何かを幻視した。
(気配が、変わったのか)
ロンの僅かな変化に首を傾げる。
それには気付かず、赤コートの吸血鬼は暴論を展開していた。
「我を前になぜ跪かない。誠意を見せるべきだろうが」
「俺達はノルティアスの外交官だ。この国の風習なんざ知らんよ」
「関係ないだろうッ! 人間など家畜未満の存在だ。たとえ国が違えど変わらない」
その主張は傲慢そのものであり、吸血鬼の性格を端的に表していた。
彼らにとって、人間はそういう存在なのだ。
そういえば、理性を失いかけた伯爵も似たような言動を取っていた気がする。
ウォーグラトナではそれが常識なのかもしれない。




