第21話 殺人鬼は力を求める
移動中、僕は気になったことをエマに質問する。
「そういえば、さっきの一件で死んだ外交官はどうするのですか」
「今更な質問だね」
「ふと気になりまして」
エマは少し呆れた様子だった。
確かに訊くのが遅かったのは否めない。
ただ、それは僕が薄情なわけではなかった。
驚くことが多すぎて後回しになっただけである。
伯爵との交戦で死んだ外交官は、後続のバスに積んであった。
だいたい五人か六人だろうか。
解体されたままなので正確な人数は分からないが、十人未満なのは確かだと思う。
彼らはその場に捨てられず運ばれていた。
持ち帰って埋葬するのだろうか。
いくら殺人鬼と言っても、他国とやり取りをする職業だ。
死後もそれなりの待遇を受けられるのかもしれない。
(しかし、埋葬までに腐りそうだ)
どうでもいいことを考えていると、伯爵が僕の疑問に答えてくれた。
「死体はこちらで買い取らせてもらったよ。殺人鬼の血は不味いが、まあ腹の足しにはなるからね」
「血を吸うのですか」
「もちろん。我々はヴァンパイアだからね。食事用の人間も飼っているが、たまには外食だってしたくなる」
伯爵は楽しそうに述べる。
彼は死体の血を摂取するそうだ。
その様子からして、忌避する気持ちは持っていない。
おそらくこれが普通なのだ。
吸血鬼にとって人類は食糧である。
話が通じているので忘れそうになるが、この世界で人類は資源という扱いだった。
用途は異なれど、それはどの国でも一緒なのだ。
人権という概念はないものと考えるべきであった。
ロンは伯爵を見ながら僕に忠告する。
「気を付けろよ。油断すると血を抜き取られるぜ」
「否定はできないな。ウォーグラトナでは力こそ正義だ。弱者はただ搾取される。まあ、私が同行する間は安全だろう。獲物を横取りすればどうなるのか理解しているだろうからね」
伯爵は不気味に笑いながら応じる。
冗談めかしているが、きっと本気なのだろう。
吸血鬼の国は、やはりノルティアスより危険らしい。
(伯爵は地位の高い吸血鬼なのか)
力こそ正義である国で、彼の地位は高いらしい。
つまい相応の実力なのだろう。
(僕はまだ弱い。力を身に付けなければ)
殺人鬼として採用されて、才能を見い出された。
しかし、実戦では惨敗している。
腕を切断されるという大怪我を負う羽目になった。
情けない気持ちはある。
(吸血鬼だって必ず殺せるはずだ。やり方次第できっと勝てる)
僕は半ば確信していた。
この感覚こそが、殺人鬼の本能なのだろうか。
自分でもよく分かっていないが、少なくとも状況に順応しつつあるのは確かだ。
これだけ向上心を抱いているのは人生で初めてである。
その時、ロンは肘で僕の脇腹をつついてきた。
「おい。あまり物騒なことを考えるなよ。目を付けられるぜ」
「気を付けます」
僕は素直に頭を下げたが、ロンはため息を吐いていた。




