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破滅した人類は希少資源です  作者: 結城 からく


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第18話 殺人鬼は窮地を知る

「グァ……ッ!?」


 吸血鬼に苦しそうに叫んで吐血する。

 僕を突き飛ばしながら口から弾丸を吐き出した。

 そして、裂けた首を押さえる。


(これだけやっても死なないのか)


 吸血鬼は驚異的な生命力を有しているらしい。


 僕は弾切れの拳銃を捨てると、リボルバー拳銃を持ち上げて撃とうとした。

 しかし、その前に吸血鬼の姿が霞んで消える。

 次の瞬間、真横に接近していた。


「この、人間ごときがァッ!」


 吸血鬼が手が肘を通過する。

 拳銃を持つ腕は宙を舞っていた。

 放されたリボルバーが落下し、遅れて断面から血が迸る。


 僕はあまりの激痛に膝をつく。

 鮮血で服を濡らしながら目の前の吸血鬼を見上げた。


 何かを考える余裕はなかった。

 激痛を無視してリボルバーを拾って、吸血鬼に向けて至近距離から連射する。


「ぐ、ぶっ」


 吐血した吸血鬼が仰け反って呻く。


 リボルバーには銀の弾丸を使っている。

 魔術で強化されたものらしく、ロッカー内には僅かしか入っていなかった貴重品だ。

 吸血鬼にも有効なはずだった。

 もしもの保険として使う予定が、こんなことになってしまった。


「ダニエルっ!」


 ロンが駆け寄ってくる。

 一方、吸血鬼は怒りに震えていた。


「同族殺しに目覚めた異常種が、図に乗りおって……!」


 振り上げられた手が動く瞬間、颯爽と移動してきたエマが割り込んでくる。

 彼女はいつも通りの態度で発言した。


「そこまでだ。互いに止まってね」


「……っ」


 吸血鬼が目を見開いて止まる。

 その顔に理性が戻ってきた。

 彼は血に濡れた手で髪を掻き上げて苦笑する。


「ふぅ、すまない。頭に血が上ったようだ。恥ずかしいところを見せたね。抑えているつもりだが、つい本能が出てしまった」


「こんにちは、スィーカー伯爵。元気そうで何よりだよ」


「やあ、エマ。君こそ相変わらずだね」


 両者は気軽に挨拶をした。

 どうやら知り合いのようだ。

 エマは周囲の死体を見て肩をすくめる。


「ヴァンパイアの挨拶はいつも過激だね。おかげで職員不足が絶えないよ」


「ははは、面白いジョークだ。君達の大半は不死身だろう。これでくたばるならノルティアスの外交官として失格だと思うがね」


 吸血鬼が笑いながら述べる。


 気が付くと、辺りの死体は蠢き出していた。

 それぞれが自分の死体を引き寄せて繋げたり、断面から新たな肉体を生やして立ち上がろうとしている。

 愚痴や小言を洩らしている者もいた。


(蘇っているのか)


 僕はその不気味な光景に驚く。


 殺人鬼は不死身らしい。

 どういう仕組みなのか分からない。

 人間ではなかったのか。


 呆気に取られていると、吸血鬼が僕の前に屈んで肩に手を置いた。


「手荒な真似をしたね。先に腕を治すといい。挨拶はそれからだ」


「治せません」


「何? 再生に時間がかかるタイプか。それとも触媒や素材を要する系統かね。魔力不足なら譲渡できるが」


 吸血鬼が困ったようにぼやく。

 そこにエマが補足をした。


「彼は新人だよ。殺人鬼ではあるけど、不死身の能力を持たない」


「ほほう、常人だったのか。それは驚きだな」


 吸血鬼は感心したように言うと、僕を引き起こした。

 出血と共に痛みが膨張する。

 あまりの感覚に意識が飛びそうだった。

 全身から脂汗が垂れてくる。


「ふむ。大丈夫かね」


「これが、平気そうに、見えますか」


「激痛に苦しんでいるな。顔色も悪い。じきに出血多量で死ぬだろう」


 吸血鬼は淡々と述べて、非難を込めた口調でエマを問い詰めた。


「なぜ彼に回復手段を用意していない? 新人研修にしても、再生薬の投与くらいは施すものだと思うが」


「その子――ダニエル君の素質を確かめたかったんだ。人工物は殺人鬼の才能を妨げてしまう」


「潜在能力だけで強くなる時代は終わったのだよ。ノルティアスは先進国なのだから、そろそろ古臭い主義を変えたまえ」


「未だに貴族階級を敷くヴァンパイアには言われたくないよ」


「まったく、頑固な上司だ。同情してしまうよ」


 ため息を吐いた吸血鬼は、切断された僕の腕に手を当てた。


「何、を」


「先ほどの戦いは君の勝ちだ。だから褒美をやろう」


 言い終えた吸血鬼の手が震える。

 刹那、断面から何かが潜り込んできた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 人間も人間じゃなかった、、、化け物しかいない笑
[良い点] >「ヴァンパイアの挨拶はいつも過激だね。おかげで職員不足が絶えないよ」 >「ははは、面白いジョークだ。君達の大半は不死身だろう。これでくたばるならノルティアスの外交官として失格だと思うがね…
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