第12話 殺人鬼は初仕事を受ける
僕達は車を門の内側に走らせるも、すぐに女性の指示で降ろされた。
彼女は涼しい顔で僕達に告げる。
「さっそくだけど、これから初仕事だ」
「おいおい、休ませてくれよ」
ロンが文句を言うも、女性は態度を崩さずに歩き始めた。
「移動中に休めるから大丈夫。さあ、ついてきて」
「ったく、仕方ねぇな……」
頭を掻いたロンはため息を洩らしつつ、女性の背中を追って歩く。
ここで反論したところで意味がないと悟ったようだ。
実際、僕達は逆らえる立場にない。
外交官として受け入れられたが、新米未満の扱いだろう。
ちょっとした拍子に取り消されることだって考えられる。
(やはり大人しく従うべきだろう)
僕はロンと並ぶようにして歩き出した。
軍人の行き来する工場地帯を移動していく。
彼らは僕達を一瞥するも、感情を見せることなく通り過ぎた。
(ノルティアスの軍人は殺人鬼なのだろうか?)
ふと疑問に思う。
それを言葉にする前に、隣のロンが辺りを見渡しながら呟いた。
「ノルティアスに来るのは初めてだが、随分と物々しいな。軍事国家ってやつかね」
「軍の管理する区画を出れば、普通の街もありますよ。とても過ごしやすいです」
「ははぁ、そこが狩場ってわけか」
数分もせずに女性は足を止めた。
そこは駐車場で、中央に大型バスが停まっていた。
全体に分厚い鉄板が張り付けられて、窓の部分も隙間なく塞がれている。
その重量を支えるためか、タイヤも大型のものが使用されていた。
女性は大型バスを指差して言う。
「これで移動するよ」
「やけに厳重だが……まさか国外に行くのか?」
「うん。外交官だからね」
鉄板は攻撃から身を守るための措置だろう。
危険地帯に向かうことを示唆している。
すなわち国外ということだ。
無論、拒否権もないので女性と僕達は車内に移る。
無骨な車内には金属製のベンチが左右に儲けられていた。
後部にはトイレやシャワー室といった設備も用意されている。
最低限の機能性だけを求めたような内装で、乗り心地は期待できそうにない。
僕達がベンチに座ったところでバスは発進する。
内部からは外がまったく見えない。
揺れやエンジン音くらいしか変化がなかった。
そんな中、女性が話題を切り出す。
「自己紹介が遅れたね。私の名前はエマ。ノルティアスの外交官で、殺人鬼の雇用も担当しているよ。よろしくね」
「ロン・ドエル。竜の国の出身だ」
「へぇ、竜の国か。過酷な環境で育ったんだね」
「まあな。人間なんて奴隷だったよ」
ロンは自嘲気味に言う。
竜の国について僕はほとんど知らないが、少なくともノルティアスより暮らしづらい場所だろう。
女性――エマは襟元に触れながら微笑する。
「安心するといい。これから君は管理する側に回る。種族的に虐げられることはない」
「そいつは朗報だな」
「殉職率は高いけど気にしないで」
「ハッ、最高の職場だぜ」
ロンは皮肉って笑うが、エマは真顔だった。
ただ事実を述べただけなのだろう。
今更、動揺することもなかった。
僕はエマに質問をする。
「ところで、行き先はどこの国なのですか?」
「ああ、ごめん。本題を忘れていたね」
エマは思い出したように手を打つと、少し間を置いて答えた。
「吸血鬼国ウォーグラトナ。支配種のヴァンパイア達と交渉するよ」