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空がきこえる②
チャイムが鳴る。
現代文の授業が始まった。
若い女の先生が教壇に立ち、「『こころ』夏目漱石」と板書した。
「じゃあ、先週やったことの復習から。この作品の時代背景を説明してくれる人?」
つと、先生と目があった。
当てられるかなと思ったが、先生はまばたきをするばかりで、何も言わない。そのまま、時間だけが過ぎていく。
「先生?」
誰かが言った。
「あ、ごめんなさい」
教科書に目をやり、そしてすぐ僕の方を見た。
「あの、深入くん、よね?」
「はい」
「今日はラノベ、読まないの?」
「え? 僕は普段、授業中にラノベを読んでいるんですか?」
「僕?」
「え?」
混乱している。僕も先生も。
クラスメイトたちがさざめき立つ。
「先生、私と霧彦が記憶喪失になったって聞いてないんですか?」
音根さんの発言に先生は目を丸くした。
「あれ、デマじゃなかったの? 本当に?」
僕はうなずいた。
先生はうなだれて、教卓に両ひじをついた。
「そう。分かったわ。ごめんなさい。授業を再開します」
声が沈んでいた。
授業中、先生は何度もチョークを落した。




