熟考という概念が存在しない退屈な世界②
「おはよー」
元気に挨拶して教室に入ると、変な顔をされた。
「え? なんで?」
普通、挨拶するでしょ。意味わかんない。
私の方を見ながら、何かささやき合っている子たちもいる。
うざったいなあ、ああいうの。
一発、言ってやろうか。
腕をまくり、そいつらのいる方へ行こうとしたら、三人の女子に行く手を阻まれた。
「音根、なんだよね?」
「そうだよ。私、深入音根。あ、でもね、なんにも覚えてないの。記憶喪失ってやつ。ほんと、まいっちゃうよね。あ、もしかしてあなたたち、私の友達だった? 名前、教えて」
三人はとまどいながらも、名前を教えてくれた。
佐藤さくら、鈴木すみれ、山田八重。
あ、この人たち、林間学校で私と同じ班だった人たちだ。しおりにそう書いてあったもん。
「私の机ってどこか分かる?」
「こ、こっちだよ」
案内してもらう。
私は、席につくなり、自分の身にふりかかってきた災難について話し始めた。イギリスでのこと、帰国してからのこと、たくさん質問を浴びせかけられたこと。ほとんど愚痴だった。三人はすごく真剣に聞いてくれた。というか、全然、しゃべらないの。無口だなあ。しゃべってくれていいのに。
「ねえ、私のこと教えてよ。私ってどんな子だった?」
「音根は――」
佐藤さくらと言う子が答えようとして、言葉を切った。その目には涙が膨らんでいた。今にも目じりから零れ落ちそうだ。
「ええっ? どうしたの? なんか嫌なことあった?」
「ううん、なんでもないの」
「え? そうなの?」
でも本人がそう言うなら、そうなんだよね。
「ねえ、二人も答えてよ。私、どんな子だった?」
鈴木すみれと山田八重はすでに泣き出していた。
ええ、なにこれ怖い。
「三人とも急にどうしちゃったの? もしかしてこの学校では朝、泣くのが流行ってたりする?」
「ううん、しないよ」
そう言って、堪えかねたかのように佐藤さくらまで泣き出してしまった。
「何これ、どういうこと? 意味わかんない」
でも、まあ、いっか。
考えるだけ無駄だよね。人の気持ちなんて分かりっこないんだし。考えるの、疲れるし。
私は私が楽しければそれでいいや。




