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八十分間異世界半周  作者: 仙葉康大
第十章
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わたしの人生の物語

 落下中、私は、私の人生を思い返していた。

 幼稚園のとき、私には友達がいた。それもたくさん。


 言いたいことを言って、おいしいものを食べて、よく眠る子だった。花が好きで、歌が好きで、体を動かすのが好きで、気分屋だった。


 自分は何でもできる。そう思っていた。

 そんな私にも、小学三年生のとき、転機が訪れる。

 お父さんとお母さんが離婚したのだ。


 子供の私には、二人はうまくいっているように見えた。けれど、違ったのだ。お父さんは、弁護士として活躍するお母さんに劣等感をつのらせていたのだ。


「これ以上一緒にいたら、手をあげてしまうかもしれない」


 この言葉が決め手になって、お母さんは離婚を受け入れた。

 それから私は何も信じられなくなった。


 友達と話すとき、先生と話すとき、スーパーの店員さんにありがとうと言うとき、どんなときでも、相手の顔色をうかがうようになった。


 けれど、顔色は嘘をつく。そのことを、私は知っていた。

 表面上はうまくいっているように見えても、相手は、笑顔の裏では苦しんでいるのかもしれないのだ。

 だから友達が、先生が、店員さんが、何を考えているのか、考える必要がある。


 自然と口数は少なくなっていった。

 どうしてもしゃべらなくてはいけないときだけしゃべるようになった。

 気づいたら、言葉がつっかえるようになっていた。


 中学生になって、からかわれることが増えた。


 けれど、いじめに発展することはなかった。お母さんのおかげだと思う。もしいじめが起こったら、すぐに証拠を集めて出るところへ出る、と担任の先生を脅しつけたりしてたから。


 高校生になって一年目。誰もかれもが私の吃音を馬鹿にした。


 国語や英語の時間は特に苦痛で、私が音読すると、誰かがこらえきれずに噴きだすのだった。教科書で顔を隠し、笑いを我慢している先生もいた。


 私の味方はいなかった。

 ある一人を除いて。


 その人はいつも二次元のかわいい女の子のイラストが載った本を読んでいた。その人だけは私のことを笑わなかった。むしろ、にらんでいた。私を笑う人たちを。


 二年になって、からかいがいじめへと変容していく中で、その人の存在は私の中でとても大きくなっていった。


 私はこの人のことが好きなんだと思った。

 今、その人は隣にいる。


 それにしても長い穴だ。

 いつ終わりが来るのだろうか。


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