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八十分間異世界半周  作者: 仙葉康大
第八章
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たったひとつの冴えた呼びかた④

「お客様にお知らせいたします。当竜は安全高度に到達いたしました。西の果て、ナハテの海まではそこそこかかりますので、それまでごゆっくりおくつろぎください。なお、おや?」


 アナウンスの途中で、深入くんが手を挙げ、エルーさんがそれに気づいた。


「教えてほしいんだが」

「なんでしょう?」

「そこそこかかるってのは、どれぐらいだ?」


 深入くんは腕時計を見ている。


「そこそこはそこそこでございますよ、お客様」

「ちなみにこの世界は一時間何分なんだ?」

「ぷん?」


 エルーさんが首を傾げた。


「すまない。忘れてくれ」

「まあ、お客様が思っているよりははるかに早く着くと思いますよ。キシシ」


 この歯をきしり合わせたような音が、小さな妖精の笑い声なのだった。


「ところで、お客様。いちいちお客様とお呼びするのも面倒くさいので、お名前をうかがっても?」

「深入霧彦」

「ふふふ深入音根です」


 あんまりしゃべりたくはなかったのだが、自分の名前ぐらいは言わねばならない。

 エルーさんが不思議そうに私を見つめた。


 私がどもったから。

 きっとそうだ。


「フカイリって、もしかして二人は兄妹?」


 エルーさんは私のどもりに気づいていないのだろうか。それとも、わざとそのことには触れないようにしてくれているのだろうか。


「ねえ、そうなの?」


 私の顔の前に来たので、私は答える。


「そ、そそうだよ」

「いいなー、私、一人っ子でね。だからうらやましんだ。二人の話、もっと聞かせてよ。そのリュックには何が入ってるの? ねえねえ」


 私たちは、どこから話せばいいのか、途方に暮れた。

 だから全部話すことにした。私たちに関係することのすべて。


 親が再婚して兄妹になったこと、だから血はつながっていないこと、林間学校という行事のこと、お化けトンネルを通ってこの世界にやって来たこと。


 リュックの中の物も出して、一つずつ説明した。


 言葉を交わしていく中で、私たちは打ち解け合い、持ち物の説明を終えた時には、私はエルーさんのことをエルーと呼び捨てするようになっていた。


「もっと聞かせて。林間学校で一番楽しかったことは? 逆に残念だったことは?」

「楽しかったこと、特になし。残念だったこと、ほぼすべて」

「ってひねくれものの霧彦は言ってるけど、音根は?」

「わわ私はバードウォッチングとかオリエンテーリングとか楽しかったよ。ざ、ざ残念だったことはやっぱり天体観測かなあ」

「どうして?」

「て、天気が悪くてね、ほ星が見れなかったの」

「ふーん。あ、いいこと思いついた」


 エルーは八重歯を見せて「キシシ」と笑った。


「シックザーク、フライトプランの変更は可能? 寄って欲しいところがあるの」


 竜が短く鳴いた。その声はパイプオルガンの低音の響きによく似ていた。


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