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八十分間異世界半周  作者: 仙葉康大
第七章
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辜の形③

 飯盒炊飯を一緒に作る班がくじ引きで決まった。


 俺や音根を中心にこの世界が回っているのなら、俺と音根は間違いなく一緒に昼飯を作ることになっていたはずだ。


 が、現実はラブコメ漫画ではないのである。

 俺たちの班と組むことになった女子の班に音根はいなかった。


「よろしくー」


 女子がそんなことを言うから、俺以外の男子は律儀に何か受け答えしている。人としてこいつらは正しい。


 俺は帰りたくなった。朝食を抜いているので、昼は食べたいが、こいつらと同じテーブルを囲むのはごめんである。こいつらの正しさは、俺のコミュ障ぶりを浮き彫りにするのである。


 テンションが高い女子たちの中に一人、クールなのがいた。角田だ。こいつはいつも不機嫌な顔をしている。音根をいじめているときだけは楽しそうだったが、それ以外でこいつが笑っているのを、俺は見たことがない。


 調理開始。

 みんな、野菜を切ったり、米をといだり忙しそうである。


 俺は突っ立っていた。

 角田も突っ立っていた。

 だからか、俺たちは飯盒を炊いて来るよう命じられた。


 野外炉(やがいろ)があるところに行き、飯盒を火にかける。監督の教師が色々と指図してくるが、聞き流す。


 あとは待つだけである。

 暇だ。


 他の奴らは一緒に来た者と何かしゃべっている。が、俺に話し相手がいるはずもなかった。特に角田とは話せない。


 教室で、俺はこいつを糾弾した。脅迫し、音根へのいじめをやめさせた。


 俺はこいつを一生許さないし、こいつも俺のことを一生憎たらしく思うだろう。だから俺たちは、互いが死ぬまで、もう二度と言葉を交わすことはないだろう。


「昨日、あいつがあんたのこと探してた」

「は?」


 話しかけてきたことも意外だったが、それ以上に内容が意味不明だった。


「あいつって誰だよ?」

「相田音根」


 俺たちは視線を絶対に合わせなかった。炎の上の飯盒を見つめていた。


「天体観測のとき、あんたを探してた」

「それがお前に何か関係あるのか?」

「ない」


 言い切ったあとで、角田は軽く息を吐いた。


「けど」


 と、言葉をつなげる。


「あいつはお前を探してた。泣きそうな目をしてた」

「だから何だ?」

「だから何って話じゃない」


 それきり、黙ってしまった。


 結局角田は何が言いたかったのだろう。かつてこいつは音根をいじめていて、けれど、今はもういじめなどしていないはずで、だから、こいつと音根にはもう接点がないはずで。なのに角田は音根のことを話している。これはどういうことだ? くそ。角田が鈴木のように分かりやすい奴だったら、俺はこんなに混乱しなかったはずだ。


 いや、待て。


 もしかすると、角田は鈴木と同じ理由で、しかし、鈴木とは違ってかなり回りくどい方法で、俺を責めているのではないか?


 俺は拳を握りしめる。

 いじめっ子が改心していい奴になる話など俺は大嫌いだ。


 角田が今後どれだけ善行を積もうと、音根をいじめていたという事実はくつがえらない。同様に、俺が長い間、いじめを傍観していたという事実もなかったことにはならない。罪は償えるなどと主張する馬鹿者も世間にはいるが、そんなことはタイムマシンを開発した後で言え。


 飯盒が沸騰して中から汁が吹きこぼれてきた。

 木の棒を使い、飯盒を火の弱いところへ移す。


 昨日の曇り空が嘘のような晴天のもと、俺たち罪人は、俺たち罪人の飯を作っていた。


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