雲は無慈悲な夜の帝王②
林間学校と言っても古い木造建ての校舎に泊まるわけではない。
これから三日間、わたしたちが使わせてもらう宿泊施設は、「青年の家」という名前で市民県民に親しまれている。運動場、テニスコート、体育館、キャンプ場が近くにあり、部活の合宿にも使えるし、予約をいれるだけで誰でも無料でスポーツやキャンプを楽しめる。
バスが停まった。
私たちは「青年の家」の本館の前に降り立ち、そばにある広場に移動した。三本あるポールの先には、国旗や県旗や「青年の家」の旗が掲げてあった。
施設の人にあいさつする。簡単な説明を受けてから、私たちは本館に入って行った。
通路を進み、階段を上り、連絡通路を歩いて西棟へ。その四階の405号室が私たちの班に割り振られた部屋だった。
和室だ。座布団が部屋の隅に重ねておいてある。その傍に足を折りたためるタイプの座卓が立てかけてある。テレビはない。ベランダもないが、窓はある。木々の乱立する、山の斜面が見えている。
ボストンバッグなどの大きな荷物は置いて、リュックとお弁当だけ持ってすぐ部屋を出る。
今日一日目の予定は、午後から登山、帰ってきて、夕食を食べ、夜は天体観測、ということになっている。
野球やサッカーのできるグラウンドに集合した私たち生徒は、点呼ののち、散らばってお弁当を食べ始めた。ほとんどの生徒は班で固まっている。私たちもそうした。色とりどりのレジャーシートが敷かれたグラウンドは、俯瞰してみると、さながら、一個のモザイク画のように見えるだろう。
お弁当箱は今日に限り、使い捨ての、捨てられるプラ容器だ。お母さんが早起きして作ってくれた卵焼きを食べる。
「なんか怪しい」
そう呟いた八重の視線の先は、空だった。鈍色の、重たそうな雲が私たちのはるか頭上を覆おうとしていた。
「雨さえ降らなければ行けるでしょ。大丈夫大丈夫」
すみれは楽観的だ。うらやましい。私なんかはすぐ悪い方悪い方へ想像してしまうから。
「ねえねえ山頂で何する? ヤッホーってする?」
興奮して話すすみれをよそに、さくらと八重はいよいよ暗雲に埋め尽くされた空を仰いでいる。
「無理そうね」
「だね」
「なんでそんなこと言うの? 音根は行けると思うよね?」
「う、うん。い、行けたらいいね」




