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八十分間異世界半周  作者: 仙葉康大
第五章
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やはり俺の青春ソロプレイは間違っていない。

 ドアを背に廊下に立ち、音根がラノベを選び終わるのを待つ。


 正直、ここまでする必要があるのか、疑問ではある。俺だって分別のある人間だ。相手の同意なしに性行為を行うなどあり得ないし、同意があったとしても、赤ん坊を養えるだけの資力がない高校生の俺たちは、セックスなどするべきではないとも思っている。


 けれど、万が一がある。性欲を完全にコントロールできた男が人類史上一人でもいただろうか。


 それに、俺はもう俺が信じられない。


 昨夜、ラノベを借りに来た音根は、湯上りだった。パジャマ姿だった。シャンプーの香りがして、俺の意識は明晰(めいせき)の対岸へと(いざな)われた。理性は三億光年のかなたにまで吹き飛んでいった。


 認めよう。俺は音根に()れている。


 そのときである。部屋の中からすすり泣く声が聞こえてきた。


 理性で判断するよりも早く動き出していた。ドアを開けると、音根が泣いていたので、理由を尋ねようとした。しかし、動いたのは口ではなく、足だった。音根に近づいて行った俺は、そこでまた、今度こそ、なぜ泣いているのか、理由を尋ねようとした。しかし、音根の赤くなった頬を涙が震えながら(くだ)っていくのを見つめていると、言葉など忘れてしまった。


 俺は音根を抱きしめた。互いの体温が伝わり合い溶けていく。


 ダメだ。今すぐにでも離れないと。このままでは行くところまで行ってしまう。


「ふ、ふふ深入くん」


 音根が俺の胸にこすりつけていた顔を上げた。


「わ、私たち、いい今、い、いけないことしてるのかな?」

「そうだな。これはいわゆる不純異性交遊というやつに該当するんだろうな」


 一刻も早く俺たちは離れなければならない。分かっている。分かってはいるが、理解と実践との乖離(かいり)を埋めるすべを、俺も音根も知らなかった。


 このままずっとこうしていたい。そんな欲望が俺の精神を支配しかけたそのとき、声が聞こえた。


 ――同じだ。


 肉声じゃない。俺自身の内面に響くその声は、さらに続ける。


 ――この女もお前の母親と同じだ。愛情などいつかは風化してしまう。


 俺は音根の背中に回していた腕の力を抜いた。音根が不思議そうに俺を見つめた。


「ふ、深入くん?」


 俺は音根の肩に手を置き、半歩後ろに下がり、距離を取った。最後に肩からも手を離し、俺と音根は、独立した人間に戻った。


「悪い。どうかしてた」

「あ、ぜ、全然。ああ謝らないで。わ、私、嫌じゃなかったから」


 俺も嫌じゃなかった。むしろ好きな人を抱きしめるのは快感だった。なのに、声が聞こえてしまった。今も聞こえる。


 ――お前は人を信じきれない。永遠に。


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