やはり俺の青春ソロプレイは間違っていない。
ドアを背に廊下に立ち、音根がラノベを選び終わるのを待つ。
正直、ここまでする必要があるのか、疑問ではある。俺だって分別のある人間だ。相手の同意なしに性行為を行うなどあり得ないし、同意があったとしても、赤ん坊を養えるだけの資力がない高校生の俺たちは、セックスなどするべきではないとも思っている。
けれど、万が一がある。性欲を完全にコントロールできた男が人類史上一人でもいただろうか。
それに、俺はもう俺が信じられない。
昨夜、ラノベを借りに来た音根は、湯上りだった。パジャマ姿だった。シャンプーの香りがして、俺の意識は明晰の対岸へと誘われた。理性は三億光年のかなたにまで吹き飛んでいった。
認めよう。俺は音根に惚れている。
そのときである。部屋の中からすすり泣く声が聞こえてきた。
理性で判断するよりも早く動き出していた。ドアを開けると、音根が泣いていたので、理由を尋ねようとした。しかし、動いたのは口ではなく、足だった。音根に近づいて行った俺は、そこでまた、今度こそ、なぜ泣いているのか、理由を尋ねようとした。しかし、音根の赤くなった頬を涙が震えながら下っていくのを見つめていると、言葉など忘れてしまった。
俺は音根を抱きしめた。互いの体温が伝わり合い溶けていく。
ダメだ。今すぐにでも離れないと。このままでは行くところまで行ってしまう。
「ふ、ふふ深入くん」
音根が俺の胸にこすりつけていた顔を上げた。
「わ、私たち、いい今、い、いけないことしてるのかな?」
「そうだな。これはいわゆる不純異性交遊というやつに該当するんだろうな」
一刻も早く俺たちは離れなければならない。分かっている。分かってはいるが、理解と実践との乖離を埋めるすべを、俺も音根も知らなかった。
このままずっとこうしていたい。そんな欲望が俺の精神を支配しかけたそのとき、声が聞こえた。
――同じだ。
肉声じゃない。俺自身の内面に響くその声は、さらに続ける。
――この女もお前の母親と同じだ。愛情などいつかは風化してしまう。
俺は音根の背中に回していた腕の力を抜いた。音根が不思議そうに俺を見つめた。
「ふ、深入くん?」
俺は音根の肩に手を置き、半歩後ろに下がり、距離を取った。最後に肩からも手を離し、俺と音根は、独立した人間に戻った。
「悪い。どうかしてた」
「あ、ぜ、全然。ああ謝らないで。わ、私、嫌じゃなかったから」
俺も嫌じゃなかった。むしろ好きな人を抱きしめるのは快感だった。なのに、声が聞こえてしまった。今も聞こえる。
――お前は人を信じきれない。永遠に。




