ノーパンツ・ノーライフ⑤
「どうしたの? 元気ない?」
昼休み、佐藤さんが私の顔をのぞきこむようにして言った。山田さんはいちごオレをストローですすっている。鈴木さんはタコさんウインナーをつまんで口へ持っていく途中だった。
「だ、だだだ大丈夫」
「そう?」
佐藤さんは首を傾げた。私の瞳の奥を読もうとしている。
「私、相田さんにはひどいことしちゃった、というか、何もしてあげられなかったからさ、今度はちゃんと助けたいんだ」
この三人はいい人だから、抱かなくてもいい罪悪感を抱いているのだ。確かにクラスの一部の人たちは私をいじめていたけれど、いじめられっ子を助ける義務など、日本の憲法および法律のどこを見渡しても存在しない。誰だって自分が大切だし、それは生理現象と同じぐらいには自然なことなのだ。
「分かった」
鈴木さんが握り拳を、もう一方の手の平に打ち付けた。
「相田さん、悩んでるんだよ。恋の悩みだよ。でしょ。だから、元気ないんでしょ」
「えええええっと、あ、あああああの、え、えええっと」
「当たった。褒めて」
山田さんが鈴木さんの頭を撫でる。一息ついてから、私の方を見た。
「ぶっちゃけ、どうなの? 深入くんとの仲」
「ふ、ふふふ普通だよ」
「嘘だあ。だって思春期の男女が一つ屋根の下で暮らしてるんだよ。何か普通ではない、異常な事態が起こっているはず。さあ聞かせなさい。さあ」
「い、いい異常な事態なんて、な、なな何もないよ。た、たたただ」
「ただ?」
私は目を伏せて答えた。
「へ、部屋に入れてもらえなかったの」
三人が真顔になった。
「気にすることないんじゃない?」
そう言ったのは、鈴木さんだ。
「ど、どどどうして?」
「いい? 音根ちゃん。思春期の男子が異性を部屋に入れない理由なんて一つしかないのよ。分かる?」
私は首を横に振った。
「エロ本よ」
断言した。
「きっと深入くんは隠してるエロ本を発見されたくなくて、音根ちゃんを部屋に入れなかったのよ」
「すみれは間違ってる」
山田さんは違う意見らしい。ちなみにすみれと言うのは、鈴木さんの下の名前である。
「私の推理のどこが間違っていると言うの?」
「エロ本の隠し場所に困るなんて時代錯誤も甚だしい。今時の男子は、紙のエロ本なんて持ってない」
「分かった。電子書籍だ」
佐藤さんが手を叩いた。
「正解。パスワードのかかったパソコンや電子タブレットに入っているデータを見ることは、本人以外には不可能。よって音根ちゃんが部屋に入れてもらえなかったこととエロ本は関係ない」
「ならいったいどうして? オタクでモテない深入くんにしてみれば、音根ちゃんみたいなかわいい子が部屋にくるなんて願ったり叶ったりじゃない?」
私、かわいくなんてないと否定はしてみたけれど、三人は聞いていない。
「異性に耐性のない深入くんだからこそ、部屋に入れなかったのかも」
「ど、どどどどういうこと?」
「つまり深入くんの人生において母親以外の異性が部屋に来るなんて、天変地異に匹敵する異常事態なはず。だからてんぱって思わず拒絶してしまった、とか?」
「うーん、なんか決定打に欠ける気がする」
そのときだった。
「結局さ、本人に直接訊いてみるしかないんじゃない」
呟いて、佐藤さんは頬杖をついた。それから窓の外のどこか遠くへ視線をやった。まるで非処女みたいだった。




