番いの主
「今、帰ったぞ!」
「三里程前から見えていた。わざわざ儂の部屋にまで来ずともよい」
「何を言う!愛するものの顔を見たくて帰って来たのだ!ここに来るのは当然だ!」
「なら娘のとこへも行ってやれ。最近はやたら窓に噛り付いて外ばかり見ていたぞ」
「はははは!さっき部屋に行ったら枕を投げ付けられてな!廊下まで吹っ飛んだわ!」
「大方、ノックもせずに入ったのであろう…やれやれ…お主は領主になっても変わらんの」
「む?」
「なんでもない。そういえば、街の黒蜥蜴の小僧の嫁がな。孕んだぞ」
「なんと!」
「少し前まで、童だった気がするのだがな…度胸試しだなんだの言って我の鱗を取りに来ていたのが昨日のように思えるが…意外に時は早いものだ」
「はははは!そんな事もあったなぁ!悪ガキ三匹で徒党を組んできおったきおった!」
「あしらってやったのに、彼奴ら一カ月も粘りおって…全く」
「結局、お前が根負けして一枚ずつ鱗をやったんだったな!覚えとる覚えとる」
「まぁ、今回はめでたい事じゃ。昔の事は一旦忘れてやるわ。そうじゃな、子には儂の鱗を使って御守りを贈ってやれ。せめてもの祝いじゃ」
「それはいいな!何せ厄災を祓う白竜の鱗だ。子も息災に育つだろう!」
「…のう」
「なんだ?」
「儂なら老いも祓えるぞ」
「いらん」
「…そうか」
「ヒトの身でお前を見初めたのだ。ヒトのまま生きる。ヒトとして死ぬ。世界一美しい白竜と番いになったヒトとしてな」
「やれやれ…その頑固さの片鱗を、少しでもあの時見抜いておればの…いや、ヒトの身に鱗は無かったか」