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幻燈の欠片  作者: 借りた二
一章 目覚めた世界と何も無い僕等
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北の森攻略②

更新遅れて申し訳ないです。

 




 斧が振り下ろされる。俺は反射的に避けようとするが、この近距離で避けられる筈も無かった。だが首だけは避けられた。


「ガッ...ァッ...痛ぅゥ゛!」

「ガゲゲゴギィ」


 左肩に刃が食い込む感触が。体の中に異物が侵入したような感覚が。俺の触覚に雑に伝わる。

 そして更に振るわれようとする、命を狩る刃が迫る。


 やべぇって馬鹿ッ!


 痛みを堪え、転がって必死に避ける。転がりながら短剣(ダガー)へと手を伸ばすが——


 ドゴッ!!


「ぐぅ......ッ!?」


 鈍い音が鳴る。土手っ腹に重い前蹴りを喰らわせられる。声にならない声と唾と空気が嘔吐感と共に勢い良く吐き出される。


「ギギガギ」


 そのまま馬乗り、マウント状態をとられてしまう。腹を蹴られたせいで過呼吸になっている。そんな苦しい状態の中、相手は容赦無く斧を振るってくる。


 死ぬッ...死ぬ死ぬ死ぬしぬしぬッて.........ッ!!!!!!


 避ける。

 避ける。避ける。避ける。

 左右に避けたり、光の加護(プロテクション)の力を借りて、刃のついていない持ち手の部分を腕で受け止めて、凌ぐ。それでも痛い。とても痛い。本当だったら折れていてもどこもおかしくない。今も腕は内出血を起こして真っ赤に腫れているのは見なくてもわかる。そんな事もお構い無しにゴブリンは一方的な暴力を続ける。

 静かな森で静かな暴力が行使され続ける。

 この状態で武器を取るのは不可能だ。一瞬でも気を抜けば首を斬られてお陀仏間違い無し、しかしこのまま防いでいてもいずれはプロテクトが切れる。


 ——だったら、前進して懐に!!


 ヒロキは振り下ろされる斧の下に入り込み、ゴブリンの右腕を、右腕と首で固定し、力が中々入らない左手で右手を掴んで、首を絞める。ゴブリンは俺に覆いかぶさったまま、首をキメられ、息苦しい声と共に斧を手放す。


「ゴッ...ッ...ヒュッ...ゴゴゴ...!」


 落としにかかる。


 ...なんか勢いでやったけど!っ、なんだっけこの技...ッ!


 確か——


 ——『肩固め』...だっけか?



「フー...ッ!...フー...ッ!」



 落ちろ...落ちろ...っ落ちろ...ッ落ちろ落ちろ落ちろ落ちろ落ちろ落ちろ落ちろ落ちろ落ちろ落ちろ!!!!


 ゴブリンは暴れる。暴れに暴れて地面の落ち葉や土を足で蹴って踏んで撒き散らした。だがその動きも徐々に緩やかになっていき、最後にはゴブリンは何も言わなくなり、無表情のまま涎を垂らして落ちた。


「ハー...ッ...ハー...ッ!...クソ!痛ってててて......あーもうッ痛てぇンだよクソが...ッ!」


 クソが。ただの偵察に来ただけだってのになんでいるんだよ。

 最悪だ


 痛てぇし辛ぇし...


 情ね...


 つい、悪態をついてしまう。いつもは言わないような言葉も痛みと共に吐き出される。愚痴を考えたり吐いたりする事で鬱憤を晴らすと同時に痛みを紛らわす。...気休めだが。

 肩を診ると、幅十セルチ深さ三セルチ程の大きな切り傷が出来ていた。腕はパンパンに腫れ、少し触れただけでも悲鳴を上げた。切り傷よりも鈍痛が強いのは、多分光の加護(プロテクション)の弊害だろう。骨に届いていないのに骨が軋むような痛みに襲われる。

 ただ単に体を固くさせているだけなのか...?ユウリが未熟なのかは分からないが、無かったら骨まで断たれていた可能性が高い。


「三人分でも これだけ はァっ 食らうのか...っ、あー...もうっ...こんだけ離れて...偵察してて...運悪く遭遇して...クソクソクソ...なんもかんも上手くいかねーっての」


 まぁ、それでも。運良く生き残った訳だけどさ。

 儲けと見るか?...いや、プラマイゼロだろこれ


 光の加護プロテクションの脆さに苛立ちを覚えるが、ユウリがかけてくれていなかったら死んでいた。しかも三回分も重ねがけしてくれていたのだ。の筈なのに、ユウリに苛立ちを覚える自分が情けなくてみっともなくて悔しくて、ブン殴ってやりたくなる程ムカついた。自己嫌悪のループが始まる。痛みが正常な判断力を鈍らせる。

 ポーチから顔隠しの為の二カーブを取り出して肩の傷に巻く。正直余り変わる気がしないが、傷口に菌が入らないようにするのと、痛みは多少は和らぐ。


「さて...っふーッ。どうするか...」


 本来の目的は偵察だ。このまま戻って敵の位置を皆に伝えて襲撃すれば良い。傷も布と擦れるたびに名状し難い痛みが走る。化膿する前に出来るだけ早く治療したい。

 問題はこのゴブリンだ。さっさと殺して終いにすれば良いのだが、もしこのゴブリンも偵察で、帰りだとしたら異常に気付く筈だ。

 まぁ、このまま逃がしても殺しても結果は絶対に変わらない。ならやる事は一つだ。

 つまり、さっさと戻って強襲を仕掛けなければ向こうに警戒される恐れがある。ので、早く戻る必要がある。


「ごめんな...なんて、謝る義理は無いか」


 腰から短剣を取り出して、喉を裂いて殺す。血が手と顔にべっとりかかる。


 慣れないな。慣れるべきなんだろうけどさ。


 慣れちゃいけない気がするよ。


 必死になって首を締めた。でもだって、それは俺も殺されそうになったからだ。別にそこに罪を感じている訳では無い。でも、罪の意識がどんどん...どんどん希薄になって行く気がして。そんな自分が気持ち悪かった。


 道を踏み外しているんじゃないかって。



「...早く、戻らないとな。」



 そう一人で呟いて、ヒロキはその場を後にした。







 ◆




 森を駆け抜け、大回りして気付かれないように巨岩前百メートル程で潜伏している皆と合流し、単独行動から解放される。


「おい!大丈夫なのか!?」

「うん...なんとか。ちょ、これ頼むわ」

「分かった。『——【回復(ヒール)】』」


 そう唱えられると、肩の傷がみるみる修復されていく。


「何があッたんだ?」

「偵察しに行って...偵察に逆に見つかったって感じかな。方向的に多分、五つの巨岩へ戻るところだったんだと思う。だから...向こうが異常に気付く前に奇襲を仕掛けよう」

「......わかッた。その偵察は仕留めたんだよな?で、巨岩前のゴブリンの陣形も今は掴んでる。今は絶好のチャンスってワケか」

「ああ。シュウ、ユウリ、良いか?」

「勿論」

「あ...うん」


 即決する。迷っている暇は無い。あちらが気付く前に勝負をつける。




「.........っ」



 ......そんな俺達の決断の早さに紛れて、シュウが苦い顔をしていたのに俺は気付かなかった。












回復(ヒール)

光の加護(プロテクション)と並び、神官の初期魔法にして最重要とされる三大魔法の一つ。傷を癒し、戦闘に復帰させる。欠損部位の修復は不可能。

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