クラス
この六人でパーティを組まないか?
その一言で俯いていたみんなの顔が上がる。そしてその中の一人、中肉中背の引き締まった身体をした八重歯のかっこいい奴が耐えられないとばかりに吹き出した。
「ぷふっ、あははははは!!なんだよお前、ガチガチじゃねーか!いーよ乗った!あ、そうそう名前はカイトだ。お前の名前は?」
盛大に笑われたけど取り敢えず仲間にはなってくれるらしい。恥ずかしくは無いよ...?一歩踏み出せた訳だし...?
「おっ、俺はヒロキ。ヒロキだ...です。」
「ははは!はっきりしろよって、面白いやつだなァ」
またやらかした。なんだよ「だ...です。」って。もういい次だ、確か俺を起こしてくれた...コウタだ。
「コっ、コウタ君はどうする?」
「......僕は......もう少し、もう少しだけ...考えさせてくれないか?」
「そ、そっか」
まだ少し迷っているようだった。彼の滲み出るような優しさは、この世界の敵であるらしい他種族にも向けられているようで、逡巡していた。
顔色がとても悪い。
「それと、コウタで良いよ。」
「分かったコウタ。もし、入ってくれるならいつでも来てね」
「あぁ、ありがとう...」
拳と拳を合わせてくれて、そのまま街へコウタは行ってしまった。次は...女の子。小さくて可愛いらしいボブヘアーの女の子だ。
「君は...どう?」
「とっ、年下扱いしてない?...私も、少し考えさせて欲しい...かな。名前は...ナホだよ。」
「う、うん。もし気が変わったらナホも尋ねてきてね」
「ちょ、いきなり呼び捨て...まぁいいけど」
「ご、ごめん。ナホさん」
「いーよそのままで。ヒロキ」
そう言い残してナホも街へ先に向かって行ってしまった。
...二人駄目だったか。あとは二人、えっとこの黒髪の普通な感じのこいつは...
「シュウという。俺はお前に仮だがついて行くとしよう!...光栄に思え。」
「あ、あぁ、よろしく。シュウ」
変に荘厳な喋り方をする奴だけど、見た目は普通だし悪い奴では無さそうだ。彼は片手で髪を掻き上げつつ手を指し伸ばして握手を求めてくる。別に断る理由もない為、快く手を取る。
「ふむ、よろしく頼むぞ?我が眷属よ」
「う、うん」
なんだっけ...こういう奴って確かちゅうに......忘れたもういいや。
何か彼を見ていると、心の奥がキュッと締められるような気持ちになるのでしれっと視線を外す。次は...
「じゃあ」
「ユウリ。」
俺が言葉を発する前に自己紹介をしてきた。凛々しい見た目だが、何処か神秘的で不思議な雰囲気を放っている。
「えっと...ユウリ。君も入らない?」
「うん、入る。末永くね」
何か言葉の使い方が間違っている気もするけど、悪い子じゃなさそうだ。
「そ、そっか。よろしくねユウリ」
「よろしく、ヒロキ。」
ふーっ。何とかまとまったかな。俺にはちょっと荷が重い感じがするけど大丈夫かな。ちょっと吐き気がする程度には腹の辺りに重みを感じるけども...
「お決まりになりましたか?」
黒コートの案内人、ユライがそう問い掛けてくる。
俺達は前を向いて決断する。
「オレは」
「私も」
「この俺は」
「お、俺は」
「「「「勇士になります」」」」
「...」
案内人のユライは少し寂しそうに笑ったように見えた。
「...了解しました。勇士団に向かって下さい。...あなた方の行先を祈っています。」
ユライはゆっくりと頭を下げて踵を返し街の方向へ歩いて行ってしまった。
俺達も街へ勇士団に向かう為に皆に号令を掛ける。
「じゃ、じゃあ行こうずぇっ」
あ゛、舌噛んだ。
「だはは!ヒロキィ、しまらねーなァ!」
腹を抱えて爆笑するカイト。
「フハハハハ!!」
「...っ、っ、っ」
シュウやユウリにも笑われてしまった。リーダーはシュウに任せるべきか...
くっそ...恥ずかしい...
「もう今のナシ!もう行こう」
仕切り直して街へ向かう。
◆
街の手前の川を橋を通って行く。街は夜にも関わらず、明るくて活気に溢れていた。
道は土から石造りへと変わり、靴が床を踏み締める度にカツカツと硬い物と接触した音が鳴る。
脇道には呑んだくれが寝ていたり、女が客引きをしている。歩いている人間のは杖やら帯刀をしている人が沢山で、勇士なのだろうと実感する。
彼等の殆どはもしかしたら出現者だったりするのだろうか。
すれ違う度に、「新入りか...」とか「おっ、これで俺も先輩ッスねぇ」とか聴こえる。後者は俺達と同類なのだろうか。
「おいおいヒロキィ、胸張って歩けよォ」
カイトがおちょくった口調で挑発してくる。確かに俺は今、猫背で縮こまった風に歩いている。カツアゲに遭いそうと言われても致し方無いかも知れない。
「新しい環境は苦手なんだよ。新しいクラスとかにあんまり馴染めない人間なんだよ」
「......クラスって何だっけ?」
「いや、カイト......あれ?思い出せない...」
また思考に靄がかかる。煙を掴むような、あの感じだ。
「記憶欠落?」
「ん、多分そんなとこだと思う。ユウリは何か憶えてる?」
ユウリは首を横に振って否定の意を示す。
「だよな...」
全員が全員何も思い出せない。あるのは奇妙な違和感だけで、喉に小骨が引っ掛かった状態が続く。答えは喉の所まで来てはいるのに届かないような、もどかしい感じだ。
その事で悶々としていると、シュウが口を開く。
「だが、これだけは分かるぞ眷属。」
「...何が分かるの?」
「俺達は、俺達はこの世界の住人では無いという事だ」
神妙な顔をしてそんな事を言う。
「理由や根拠の説明は、虚空を掴むようにするりと抜けてしまう...だが、この身体と魂がな...『違う』と。言っているのだ。拒否反応というやつかもしれない、ちぐはぐな感じだ」
「...じゃあ俺達は一体...一体、なんなんだろうな」
「ったく考えても仕方ねーだろーが。情報不足でいくら考えた所で何も浮かびやしねー」
またしても悶々としていた所をカイトがバッサリと切り落としていく。
「それもそうだがな.....ん。貴様等、あれが勇士団の局じゃないか?」
シュウがそう言うと階段の先を六人全員が見る。一際大きな建物だった。
建物の上には物見櫓のような物と、何らかの紋様が描かれている旗が靡いている。
「さっさと行くぞヒロキ」
「お、おう」
カイトにそう言われてハッとする。
「ユウジ達のパーティにも負けられないね。」
勇士団青光の街支部、その門をくぐる。
「ど、どうもー......」
「あらぁ、いらっしゃい。勇士団の受付へようこそ歓迎するわぁん。」
恐る恐る開けた先には、男性の声で女口調の受付が居た。ピアスにピンクの髪、それにガチムチ。つけまつげや口紅もしている。男なのに。その違和感と嫌悪感から俺と皆は喉を引き攣らせたような声を出す。
「うっ...」
「ヒッ...あ、あの、ユライさんにここへ行けと」
「あぁん...新人ね。さっきの子達とはまた別の子達、か。じゃあ手続きをしようかしら。この紙に名前とパーティ構成を書き込んで頂戴。その他の項目も有るわ、分からない事があったら聞いてね?」
チュッと投げキッスをして彼...彼女は奥に行ってしまった。
「うっげぇ...キッついわアイツ...」
「ふ、ふむ...奴は私の天敵...カイトと同様、関わりたくは無い...な」
「聞こえてるわよ?」
「「「ひぃっ」」」
奥の空いているドアからひょこっと頭を出してくる。軽くホラーだ。
「悪くない」
ユウリは一人頷いている。
女の子は分からないよ...。
「それよりもさっさと記入していこう。」
名前に、パーティ名は適当に。それからクラス...?
「クラス...剣士に戦士、魔法使いとかあるんだけど...これは...皆どうする?」
「何!?...この俺に見合う、最高にしてさいきょ」
「おーっマジ!?めっちゃ面白そうだな!!」
「私神官」
皆一斉に食いつく。その気持ちはとても良く分かるが、先ずは聞くべきだろう。
「ちょ、ちょっと落ち着いてって。すみませーん!!」
「はぁい?」
「あ、あの、クラスってどう選んだ方が良いんでしょうか?」
オカマ職員(暫定)は少し悩んだような仕草を見せたあと、説明を始める。
「そうね、一番自分の性格に合った物が良いのと...パーティ構成を考えながら選ぶべきかしら。」
「あの...オススメのパーティとかってありますかね...?」
「ええ、勿論よ」
そう言うと、また部屋の奥へと消えて行き、ズカズカと音を立てながら羊皮紙を持ってくる。それをカウンターの前で広げてくれた。
「前衛を務める戦士、そこから派生する剣士、拳士、重戦士。それから傷の回復や魂を送り届ける神官ね。魔導師もあるわ。それ以外は基本的にマイナー扱いされるかしら。クラス事にそれぞれ協会が存在していてそこに入る事が出来ればクラス入りって訳ね」
「クラスを途中で変えたりするっていうのは可能なんでしょうか」
「それはクラスによって様々ね。ちなみに私は拳士よぉ?その前は剣士、ベットの上では」
「もういいです」
最後は聞いていて吐き気がしそうになったので途中で中断させた。しかしどうしよう、回復役の神官は必須だろうが、あとは戦士。それとマイナーなクラスにも非常に役に立つものが有りそうだ。例えば鍛冶師。長期間の遠征なんかがあった時に武器の調整とかしてくれるんじゃないだろうか。色んな職業を身に付けても悪い事は無さそうだ。そんなふうに思案していると、俺の目にある職業が目に付いた。
「これなら...」
「おいおい、まだかよヒロキ」
「おそい」
「フッ、ヒロキよ。遅い選択は命取りになるぞ?」
皆はもう決めたらしい。俺も今決まった
「俺は...」