北の森攻略⑧:災禍
מצוקה
שנאה
כאב
זה אותו הדבר
אתה שוכח.
להיות אלמוות, לרקוד, לרקוד מטורף. אם האיברים ממהרים, פרחים, פטריות לתוך זרי כלה.
怨嗟と祝福を願う声は
潰えてなどいない
◆
「...は?」
「ゴボッ...ォ゛おお」
雄々しき小鬼の首からは既に噴水のように血が噴き出していた。
手首、手のひらは両手共々ぐちゃぐちゃで治る余地は無い。
そもそも殺した。そう、殺したのだ。のしかかられた時には既に呼吸は絶えていて、凡そ生き物と呼べる範疇にはいなかった。死骸、死体、骸、屍。そう呼べるものになっていた筈だ。
ならば——
その答えに先に気が付いたのはユウリだった。
「不死者...生ける屍っ...でも、どうして......っ?...早過ぎる」
「ユウリ、本当に不死者なんだな?」
「うん。気配で分かる」
「...神官がそう言うなら間違いねェか」
神官の一つの恩恵として、不死者を見抜く力がある。その神官のユウリがそう言ったという事は、目の前の雄々しき小鬼が生ける屍だという事を証明した。
そして、カイトとユウリを襲ったのは未知という恐怖だ。小鬼と戦い続け、殺してきた二人にとってその変化は余りにも大きく負担となり足に枷をかけた。
「...ユウリ、どうすりゃ良い」
「首を斬って。その瞬間に私がひかりを当てれば...動かなくなると思う。でも初めてだからわかんないかも」
「しっかりしろ。この手の話はお前の方が何倍も詳しいし頼りになンだよ。大丈夫だ」
「わ...かった。ありがとう」
「良いから集中すンぞ...体力もよ、結構キツいんだわ」
そうだ、体力を大分使った。【剛体】もそうだが、『技』というのは体力をかなり消費する。【回復】は傷を癒すが体力までは戻らない。疲労を回復する奇跡というのは神官の御業にあるらしいが、駆け出しのユウリがそんなものを習得しているわけが無い。
とにかく今は首を斬る。それだけに集中しなければならない。相手が使っていた両刃斧をがっしりと装備し、向かう。
「ゴボッ...コひゅ」
不気味だ。不死者、生ける屍を初めて見て、思う。
何故死体が動く?肉体の損傷を超えて迎えた死の先に何故また動くという未来があるのか。
訳が分からない。その不気味は悪寒や嫌悪、危機感へと移ろいで行く。ただただ不気味で恐ろしい。人間としての感性、その最奥が拒んでいるような感じだ。
「死ねッッ!!!」
両刃斧を首目掛けて振るう。相手は...避ける動作をしない。何故だ?理解できない行動だ。
しかし奴は首では無く、腹で受けた。
「なんだッてんだ!!」
「ごポっ...グゥッ...ギぎぎぎ! 」
——なんで、笑ッてんだ!
腹の半ばまで斧は食い込んでいる。腸をでろでろと零し、口からは赤黒いドロドロとした血反吐をだらだらと垂らしているというのに、コイツは笑っている。意味が、訳が、分からない。
「なんで...笑ってるの?」
不死者は生者を襲う以外に、生きていた頃をなぞるように行動する。それは襲う時にも該当する。つまり、戦士が不死者になれば生前の記憶と身体から『技』を繰り出す事になる。
だがコイツは奇妙だ。
攻撃を受けて、致命傷を受けて、生前だったならば死んでいる攻撃を受けて、なお笑う。
カイトは討ち合っていてこの雄々しき小鬼を知った。決して死にたくないと願いながら戦うような奴だと。ならばこれはおかしい。
「なっ!?」
次こそ首に振るおうと、腹に食い込んだ斧を引き抜こうとし、気付く。
斧が抜けない。
あばら骨の間に挟まれ、筋肉を収縮された。生ける屍にしか出来ない芸当だ。そのまま奴は壊れた右腕を痛覚を感じさせないような動きで豪快に振るう。カイトは咄嗟に身体のスイッチを切り替え、【剛体】を発動させて防御の体制をとる。しかし
「ぐッッッッッ!!!!!」
重い。一撃が重い、重過ぎる。生前の二倍程に感じる一撃だ。
「カイト!生ける屍は身体を気にしないから、えと、だから、本来の身体の全力を引き出せる!」
「そゆことは早く言えッてんだ...!」
だが、その代わりに動きは生前と比べ物にならない程に単調だ。びりびりと痺れる腕を無視し、両刃斧を挟んでいるあばら骨を正拳突きでめきょめきょと破壊する。
「ふゥウ!!!」
そして両刃斧の柄を両手で掴み回転。胴体の半分を抉り斬る。
「げパッ!!ゴ...ぼぼ」
それでも倒れない。いや知っている。【解呪】でもしない限り、死なないだろう。放置すれば不死者というのは再生するらしい。非常に厄介極まりなく、面倒な相手だ——と師匠が言っていた。
ユウリはそれ以外の倒し方があると言うが、戦士の知識では分からない。炎で灰まで焼き尽くすとかか?
というかヒロキとシュウが戻ってくれれば負担は軽くなるが、あいつらは大丈夫なのか...?
いや、今は余計な事を考えるな。
首を、斬る。とにかくそれだけだ。後はユウリがトドメを刺してくれる。
そう決意を固めた瞬間、生ける屍の肩に短剣が突き刺さった。
「ギィィいぃぃぃぃ!!!」
断末魔のような耳を切り裂く声で吼えたかと思うと、そこから体が解けるように溶ろけ、右腕がぼとりともげた。
「ヒロキか!?」
「シュウ、決めろ!」
「言われなくとも!!!」
シュウは片手剣を首に一閃すると、まるでバターを焼けたナイフで斬るのと大差の無い抵抗のなさで切り落とす。
「......!!!!」
首と体が分かたれた時、何か憑き物に憑かれていたような表情が消えてゴブリンは死んだ。
「シュウ、ヒロキ、助かったぜ...ありがとよ。今のは」
「付加魔法の【聖光】だ。一回の攻撃限定で『信仰』と魔力を練りに練ったからな、一撃だ。...というかそれ所ではないぞ」
「まさか...」
「そのまさかだよユウリ。焼死したゴブリン以外不死者化してる。退路も絶たれてる」
「クソ...どうなッてやがんだ」
ヒロキとシュウは切羽詰まったような顔をして告げる。
ゴブリンの不死者化。それ自体は有り得ない事じゃない。むしろありふれているぐらい当たり前の事だ。有り得ないのはその速度、普通ならば一、二週間程で呪いに魅入られた者か、負の感情を持つ者のみが這いずり廻る。
血にまみれた戦場や、人々の負の信仰が瘴気となる特別な場所でさえ一日、二日かかると言われている。
殺した直後に生ける屍となるのは異常事態に他ならない。
「ユウリ、我は聖騎士だ。座学についてはお前の方が上だ。何か思い当たる事は無いか?」
「...............ある。でも、ありえないはずだから...違うとおもう...」
「それでも良い、早く伝えてくれ。マジでヤバい。」
物陰からは皮膚が爛れ、目玉が溶ろけた小鬼達が笑いながら這いずり廻り、生者を探している。
音で分かる。それも一匹や二匹じゃない。【影衝】を使えば即座に理解るが解かりたくない。
恐ろしくて堪らない。
「...んと、死霊術師か不死の王が原因...でも、やっぱ違う。だって、二つともこんな場所にいる訳がない」
「死霊術師...って確か指で数えられる位にしか居ないよな。不死の王は伝説的な存在って聞いてるし...ここにいる筈が無いのも頷ける。」
「じゃあ、なんだッてんだよ」
その二つとも非常に稀有で、道で歩いてたら遭遇するような路傍の石とは違うものだ。
死霊術師は人間側にも異種族側にも数える程しか存在しない。不死の王は百年前に高位の神官が百五十人、勇士と王国の兵士併せて千人が犠牲になりつつ、『約束の丘』にて鎮められたと本に書いてあった。
だが、心当たりはある。アイツだ。アイツしか居ない。明らかに異質な気配、瘴気、そして死の匂い。
「...アイツしか居ない。」
「ヒロキ...?」
「誰だ?」
「あの小鬼の呪術師の皮を被った化け物だ」
「でもっ!、さっき焼き殺し」
「ッ!?」
ユウリがそう言いかけた瞬間。凍り付くような声が耳元へ届いた。
『......להרוגהוא מת.』
背後を振り向くと、無い両目が永遠と俺達を射すくめ、虚無を照らしていた。