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幻燈の欠片  作者: 借りた二
一章 目覚めた世界と何も無い僕等
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北の森攻略④

 





 北の森に到着し、俺と三人は標を付けた所で別れた。【光の加護(プロテクション)】五回を重ねがけ、内二つは特殊なかけ方を施してくれた。生存率はぐんと上がる筈だと思う。

 俺は北西部。三人はやや北東部に向かい、マッピングと資源の確認。そしてゴブリンを仕留めるべく向かった。


 俺は今絶賛山登り中ってワケだ。


「はっはっ...でも言う程キツくも無いな」


 身軽に木を踏み進んで行ってる途中独り言を言う。そう言えてしまう程割と体力が付いてきたという事なのだろう。あまり変わった気はしないが多分付いてきているんだろう。


「...」


 シュウが泣いたあの日から一週間が既に経っている。それまでのゴブリンの駆除は中々に難航した。

 ゴブリンの危険度は最下級に近い。正直侮っていたというのもあるが、最初の一、二日目は俺達でも辛うじて仕留められてはいた。

 だが次の日からは違った。奴等は学習する。俺達の姿を観察し、対抗策を練り、行動に移す。それが通じずとも、また考える。多分、知能の高いリーダー格が存在しているのだろう。

 唯一の救いは奴等が単純(バカ)だということだけだ。目先の事しか考えず行動する為、どれだけ策を練ろうとも直線的で駆け出しの俺達でも見切れてしまう程単純だ。


 しかし奴等は単純(バカ)ではあるが、間抜けでは無かった。


 実際にこの一週間の中で何度か死にかけた。いや、死なないような攻撃をする相手は居ないのだが、俺達が経験した分かりやすい例だと毒だ。

 短剣に毒を塗って襲いかかってきた。

 最初は短剣に毒が塗ってあるなど気付かず、シュウはかすり傷だと放置した結果死にかけた。

 幸いにもユウリという神官が居た為、即刻【光の治癒(キュア)】をかけて一命を取り留めた。因みに神官の三大初級魔法の一つだ。

 はっきり言って危ない、一歩間違えれば仲間が一人死んでいた状態になる。

 奴等は毒草や毒虫をすり潰した物を塗っていた。

 俺は暗殺者(アサシン)だから毒には少し詳しく、材料は何となく分かる。

 決して先生の作るようなお上品な毒では無い粗雑な作りだが、猛毒で非常な危険を伴っている事に気付いた。少し値段は張ったが、全員にその毒草や毒虫に対抗する特定のキュアポーション(解毒薬)と薄く広く効くキュアポーションのそれぞれ二つを持たせるようにした。


 神官の御業、【光の治癒(キュア)】はどんな毒をも癒す万能の奇跡だが、寄り掛かりたくはない。依存すればどこかしらボロが出ると先生も酒場の勇士の先輩も言っていた事だ。魔法にも限度があるし、余裕を持ちたいというのもある。

 今の現状を鑑みるにユウリが毒でやられた場合俺達は負ける。毒で過呼吸にでもなれば詠唱すらままならないでじわじわと死に至る。

 その考えに至った時ゾッとした。

 つまり、あの時俺達は既に詰みの一歩手前だったのだから。


 正直な話...ゴブリンは強い。


 子供程度の力だの最弱だの勇士団の中では言われているが、子供が容赦無い殺意を向けて、毒の塗ったナイフや弓やボウガンを持って集団で襲い掛かってきたらどうだろう。

 恐怖でしか無い。

 だから認識を改めるべきだと俺は思う。

 依頼や敵の危険度というのは星の数で決まる。

 上限は八つ、ゴブリンは最下級の星一だが、それは単体での話だ。集団となれば、中堅クラスの勇士でも命を落とすだろう。多分だが、()()()()ゴブリンはオーク単体と同レベルで危険だ。


 ——推定でも星三つ...には、匹敵するんじゃないか?


 そう、考える。

 ぐるぐると頭の中が回転する。思考すればする程に、意識は不安へと傾きつつある。不安は大事な感情だと先生にも言われた。

 不安があるという事は穴があるという事、逆に不安が少ない人間はそれだけ周りが見えていない、危なっかしい人間だって事。不安は多ければ多い程良いし、それだけ対処出来る策が増えて穴を潰していける。

 戦士(ファイター)界隈では「不安は弱さでしかない。捨て去れ」とか言われているらしいけど...それも一理ある。思い切った行動は時には必要でもある。


 けれども、それは『腹を括るしかない(一か八かな)状況か、いざって時(切り札)』だけで良いらしい。


 俺はその言葉を噛み締めて、不安を募らせる。少しずつ動悸が止まらなくなってくるのが難点ではあるが、それだけアイディアが産まれる。


 山の斜面を低い体制と低い呼吸で見下ろし、観察する。まだ集落まではまだ約一、二キロあるだろうが、見張りや斥候(スカウト)は居てもおかしくは無い。相手が一匹なら、背後から口を押さえてざっくり...いけると思う。そうでなくとも、刺突剣(スティレット)短剣(ダガー)が一掠りでもすれば猛毒が全身に回って五分でゴブリンはお陀仏だろう。


 そう言えば...一週間前に短剣を使わないで関節技で倒した覚えがあるんだけど...どうにも名前が思い出せない。でもまぁ知らなくても良いか。技名は知らなくても何処をどう動かせば折れるか痛いかは教えて貰ったしね。


 ——...それよりも...二匹以上を俺だけで暗殺するのは...出来なくもないけど、新しい技能を会得した方が確実だな。すると...【沈黙(サイレン)】か。


 今は新しい技能を覚える為の金も無い。余裕が、無い。


「すぅーっはぁァ...」


 一度深呼吸をしてから薄く息を吐く、身軽に【音無】を使い足音を抑え進んでゆく。


「............」


 ヒロキは無言のまま目を殺し、淡々と、淡々と森を駆ける。その表情とは裏腹に、二カーブによって見えない口元は奥歯を痛い程噛み締めていた。





 ◆


 



「オラよォッ!!」

「ギッ゛......ッ」


 隙を見付けた瞬間に長剣(ロングソード)を脳天に叩き込む。その一撃は頭蓋をも砕き、辺りに灰色とどす黒い紅の脳漿をぶちまけ、辺りをびちゃぴちゃ紅く染める。

 カイトはゴブリンを殺す事に慣れてきていた。気持ちの問題でも、技術や駆け引きにおいてもだ。

 毒矢?毒付きのナイフ?それがどうしたという話だ。自分にはそんな物を通すような隙間は無い。鎧の継ぎ目には鎖帷子(チェーンメイル)を施してあるし、衝撃は来るが刃は通さない。

 だったら臆病になる必要は無い。

 逃げようものなら追い付き、掴み、押し倒し、腰に装備してある短剣(ダガー)で急所に致命の一撃(クリティカル)を決めてしまえば良い。

 所詮は十代前半程度での運動神経でしかない。

 それでも戦うのをやめ、ゴブリンが逃げに徹するのならば、剣を仕舞い、追う。腕さえ掴めれば折ることなど容易い。師匠の岩のような腕とは違い、最低限の肉と子供と同程度の腕など力を込めれば折れる。そして、痛みに悶絶しているのならば、不必要に剣を使うまでもない。剣は整備が大変だ。鍛冶屋に整備してもらうと当然金が発生するし、最低限の管理は自分でしなければならない。それに血は錆となり、切れ味を落とし、いざという時に折れてしまうかもしれない。


 ——だったら素手で首を折ればそれで良い。


「ふゥ...」


 死体から、出来の悪い毒付きの短剣(ダガー)を剥ぎ取る。後々投げナイフとしても使えるからだ。勿論その後は街で売り捌けば良いし、無駄が無い。

 段々と効率化していくカイトのその様は、酒場で呑んでる時とはまるで逆で、恐ろしい程に冷めていた。


 何かを思い詰めるように。


「...調子が良いではないか、カイト。」

「あァ、シュウもな」


 カイトの静かな荒々しさに少し流されがちなシュウは、機嫌を取るような会話をする。

 それとは裏腹に、シュウもゴブリンを狩るのには慣れてきていた。

 安全に盾でも攻撃出来るよう、大釘(スパイク)を五本程の取り付け。これならば【盾打(シールド・バッシュ)】で強烈な打撃と刺し傷を与える事が出来る。運が良ければ急所に刺さり、一撃で終わる事もある。

 衝撃と刺し傷によって武器を落とし、怯んだ所をすかさず捕まえ片手剣でトドメを刺す。堅実的で合理性の高い戦い方だ。

 既に片手剣と大釘(スパイク)には血が滴っている。


 それを二人は静かに布で拭き取る。


「行こ」

「待ッてくれよユウリ...」

「我もだ、もう少し準備させてくれ。」

「むぅ...」


 そんな二人はさておき、ユウリはいつも通りマイペースだ。とは言っても、二人と同様ユウリも神官としての働きに嵌りつつあり、どんどん優秀になっている。

 神官の魔法、所謂奇跡と呼ばれているソレには磨きがかかってきている。実はあの二週間、ユウジ達のパーティの神官よりも素晴らしい成績をユウリは叩き出していた。

光の加護(プロテクション)】の重ね掛け、というのは高等技術である。そして習っていない技能を、ユウリはアレンジで「モドキ」を創り出していた。その事を他三人が知る由も無い事だった。


「ヒロキ大丈夫かな?」


 ユウリが可愛らしく小首を傾げて二人に聞く。それにカイトは少し俯いて返す。


「......アイツは自信が足りないだけで、弱いわけじゃねェ。...一番周りが見えてるからリーダーにしてんだ」

「そうだな....我もカイトと同じだ。リーダーにしたのにはちゃんと理由がある。...だが奴め...。周りを一番見てる癖に何故自分がリーダー足り得るかが分かっていない...肝心な所なのにッ!」

「ヒロキらしいね、ふふふ」

「それもそうかもな。それが無くなっちまッたらただの出来る奴になっちまう。そりゃあもうヒロキじゃねェよ」


 カイトはくすりと笑う。今日初めての事だ。やっと張り詰めていた空気が緩む。


「そろそろ着く頃合か?まぁ奴の事だ、上手くやるさ。早く敵の首魁を知れば、攻略もこれの倍以上の効率になると思うが...」







 ◆






 窺う。何をというのは言うまでもない。

 縄張りの内部、その山の斜面にフードを被り緑に溶け込みながら観察していた。


 ヒロキは言葉を失っていた。


「これは...やべぇだろ」


 村だ。村と言えるゴブリンの集落がそこにはあった。規模からして数は...百...いや、それよりも少し多い位は居る。

 あと数ヶ月もすれば繁殖能力的に倍にはなる。周辺の人間の村にでも襲いかかられたら壊滅は免れない。ゴブリンには雌がいるが、その生態は少し特殊だ。()()()()でも交配が可能なのだ。

 村を数箇所襲われれば、二倍なんてもんじゃ無い。爆発的に増える。確実に、青光の街に被害が出る。


 ヒロキは冷や汗を流す。頭の中がまたもやぐるぐる回転しかけるその時、あるものが目に入った。




「なんだアレ......(ほこら)?」









光の治癒(キュア)

・状態異常改善。神官の三大初級魔法の一つ。毒、硬直(スタン)を治す奇跡。大昔の神話では石化をも治したと言われる。

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