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幻燈の欠片  作者: 借りた二
一章 目覚めた世界と何も無い僕等
1/26

決断

 






『ありがとう』

 不意に、そんな美しい声が聞こえた気がした——...







 ......。


 .........。


 ....................................。


 熟睡し、起きようと思えば起きれるような状態。瞼を開けるのが億劫で、ただただ目を瞑り横たわっているような、そんな感じだ。この状況、状態をまだだらだらと過ごしていたい。そうしたらきっとまた眠くなるだろう。


 風の音が聴こえる。


 体全体が硬い床に接した状態で横たわっている違和感に漸く気付く。


 違和感がある、という事は柔らかいモノの上でいつも寝ていた、という事なのだろうか。




 起きて。




 どうやら呼ばれているようだ。起きるのは簡単だ、もう既に起きているのだから。スタート地点にゴールがあるような...ものだと思う。ただ瞼を開ければ彼だか彼女だかの俺に対する認識はすぐに変わるだろう。


 瞼を開ける。


 潤った目に、涼しい風が通り抜けて乾いていく。夜の癖に明るくて、思わず目を瞑ってしまう。徐々に慣らしゆっくり認識しようとする。

 そこには美しい星空が目を覆っていた。どこまでも溶けて沈んでいくかのような深い青に、無数の輝きを放つ星々。どこか足りない物がある気がするが、何故だろう?


「あ、起きた。君はここが何処か分かったりするかな?」

「ぇ、えと......ごめん、分からない。」


 話しかけてきたのは大柄な男だった。二次性徴を終え、成長し切ったがっしりとした体は男と言えるだろう。

 彼を男の子、という人は多分居ない。

 俺がそう答えると、彼は柔和な顔に付いている柳眉を八の字に変えて、気を落とした風になってしまった。


「ご、ごめん...分からなくて」

「あっ、いや、良いんだ...他のみんなも分からないみたいだし...君を責めているわけじゃ無いんだ」


 状況が掴めなく、周りを見渡す。

 正方形の石造りで出来た風化の進んだ床。正方形の中心から幾何学模様が書き込んであり、模様の線に沿って訳の分からない文字らしきものが石に彫られていた。頂点に建てられている4つの柱。まるで何処かの神殿の遺跡のようだ。

 そしてそこには俺を含めて十五人の男女がそこに居た。


「あ、そこのヤツ起きた?これで全員かな」

「そうっぽいね」


 周りが少し煩くなる。

 初対面の人間と良くもまぁそんなに喋れるものだ、と感心する。それが俺のコミュ力の限界なのだろうが、ほっとけ。元々地味だった気がするし、内向的な性格だっていうことも知っている。把握している。何より喋っている彼等を見て、極力関わりたくない、と心が零している。


 ...うん、駄目だな俺って。



 そんな風に自分に絶望していると、小高い丘の上にある神殿のようなこの場所に、黒いコートを纏った人物が松明を持ってやって来る。

 もちろん一斉に俺達は注目する。


「えーっと...あんた誰?つーか、ここどこ?」


 金髪にピアス、オールバックにしているチャラそうな雰囲気の少年が黒コートに問い掛ける。


「ようこそトラリキアへ。」


 全員が首を傾げる。?という文字が頭の上にぷかぷかと浮いている幻覚を見てしまう程見事なものだ。


「いやーっ、そう言われても分からねーってか...そもそも俺達はなんだ?」


 "俺達はなんだ?"......ちょっと待て、なんだその質問は。俺はヒロキだ。俺はヒロキで、それから...なんでここに居るんだ?そもそも俺がいた場所って......なんだ?いやでも確かに━━


「?......分かりかねます。あなた方のような方達がこの『聖地』に出現するのはただの"現象"としか知りえません。」


 気になってつい質問をする。どうにも記憶が曖昧で、煙を掴むような状態だ。


「...雨が降るのと同じような事って事ですか?」

「はい、あなた達のような方々は突然ここで現れます。私はそのような方々の為の街への案内人です。とにかく今は私に付いてきてください。仕事ですので」

「......」



 今はまだ何も分からない。今の俺には流れに乗る事しか出来ない。そう自分に納得させた。



 星と草花が咲き乱れる平原を集団で歩いて行く。サラサラと風が通る度に薄のような草が靡いて美しい自然の音を奏で、俺はまだ緑の匂いにまだ慣れなくて、少し噎せてしまう。川をまたいだ先には街の燐光が見え始めてくる。


「あれが青光の街です。」


 淡々と案内人は告げる。どうにも手馴れた感じだ。これまでも沢山の"出現者"を案内してきた証左なのだろう。棚田のように建てられた街からは生活の営みが感じられる音や光が遠くからでも何となく伝わってくる。


「ここで、止まってください。」


 案内人は唐突に歩みを止めた。


「あなた方には街に入る前にここで選択して貰います。」

「はぁ?」

「選択って...何を選択するの?」

「どうすればいいの...?」


 集団がざわつく。記憶も無く、ここが何処かも分からないまっ更な状態で、さぁ選択しろ、などと言われても無理な話だ。


「...簡単な話です。現在、人類は他種族、言わば魔物と恒久的な戦争状態にあります。あなた方には、出来れば『勇士』になっていただきたいのです。」


 黒コートの案内人は、そう言った。


「いやいやいや、なんだよそれ」

「ワケわかんねーって」

「早く帰してよ...ってあれ?何処に帰るんだっけ」


 また集団にざわめきと響きが浸透する。記憶が無いのが拍車を掛けている。


「...もし、断れば?」

「一週間は保証します。その間に職に就けなければこの街からの追放、という形になります。職に就くのははっきり言って厳しいですので、私の勧めとしては勇士を選んだ方が無難かと」


 つまり俺達に戦えって言うのか?いやいやいや、戦うとか命のやり取りとかってそんなに簡単にしていいものだっけ?死ぬのは怖いしそんな事出来れば絶対にやりたくは無い。...そんな事とは無縁な場所に居た筈なのに。どうすれば良いのか分からないし、判断に困る。いや、どうしろって言うんだよ...自分の存在すらもあやふやなのに、今戦うか戦わないか選択しろって?それは...流石に無理があるだろ...


 どうする...?


 勇士になるのか...?


 そもそも戦えるような体や心を持っている自信が無い。


 どうする..........................




「おい」


 ドスの効いた声だった。

 その声に小心者で臆病者の俺はビクリと肩を震わせてしまう。後ろを振り向くとそこには、引き締まった浅黒い体の少年が居た。目はいつも何処かを射抜いているかのように鋭く、彼の刃の抜き身のような雰囲気を更に鋭くしていた。

 確か、名前はユウジ、だったか?


「お前に、お前、お前も来い。それとそこの三人も付いてこい。俺は勇士になる。」


 静止していた俺からすれば音速のような早さで、ユウジはこれからの仲間を指名していった。


 当然その中に俺は含まれていない。


「分かった、あんたに付いて行くぜ」

「アタシも賛成。」


 次々と決めて行き、あとに残ったのは先に行った七人のとは違うウジウジしていて優柔不断な八名のみだった。


「おい黒コート、俺達は何処へ向かえばいい。」


 ユウジ達はそう問い掛ける。


「街に勇士団というものがあります。私の名前...そうでした。『ユライ』と勇士団に伝えれば問題ないかと。其方の方々はどうやら決めかねているようですから、まぁ、取り敢えず先に街へ向かってもらえますか?」

「分かった。ユライ。」



 ユウジ達七人はさっさと街へ向かってしまい、遠くに豆粒のようになってしまった。


「では、あなた方はどうしましょうか。」


 一分程の静寂の後、遂に喋り出す。


「私は勇士にはなりません。戦うなんて絶対に無理です。戦力にもならないと思いますし」

「ぼっ!僕も無理ですっ!!僕にはそんな事出来ません!」

「...成程、了解しました。では街へ向かって下さい。街役場で一ヶ月分のお金が支給されます。私の名前を出せば支給されますので、では」


 二人は行ってしまった。

 俺は、俺達はどうすれば良い?またどうにも出来ないのか?また?...いや、またってなんだよ。記憶も無いのに。

 でもまぁ、心の機微を察するに、俺はウジウジしているどうしようもない臆病者なのは分かる。


 それでも、変えたい。こんな自分を。

 心が疼く。

 きっと、記憶を失くす前から思っていたのだろう。


「ね、ねぇ君は」

「おっ俺は...ゆ、ゆゆ勇士にな、なるよ。」


 今度こそは変えろと心が叫んでいる。


「こっ、この六人でパーティを組まない...か?」



 勇気を出して、俺はそうこの場の五人に問い掛けた。








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