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第30話 朽ちた廟

 ――我ながら、すっかり目つきが悪くなってしまった。


 歩きながら、宝余は自嘲の笑いを漏らした。道々何か役に立ちそうなもの、食べられそうなものを見逃すまいと、眼を皿のようにして歩いているものだから、肩にかついだ袋には段々と戦利品が溜まってきた。


 いまが夏でよかった――と、つくづく宝余は思った。放り出されたのがいまの季節で感謝したのは、実りが得られるということだった。道端であっても、時おり果実などが実っており、飢えを満たすことができ、あまり水分を含んでいないものだったら、いくつかを袋に蓄えることができた。

 もっとも、そればかり食べていても、腹がなんとなく水を抱えたようになってしまうので好ましくないのであるが、空腹の前には何ごとも許されるように思えるものだ。茸の類もいくつか見かけたが、見知らぬものは用心して取らなかった。


 先がまだ長いことを見越して、宝余はどこか野宿できるような場所があれば、陽が落ちる前にそこに泊まるつもりでいた。幸い、まだ夕方にもならぬ頃に無人の廟を見つけることができた。

 どうやら門はすでに朽ちており、堂も傾きかけ、窓の桟は外れ放題という凄まじい荒れ方である。だが足を踏み入れると、白烏の神と、その妃の神像はあまり傷んでいないようだった。宝余は埃の積もった床を払い、神前に額づいて守護を謝す。


 一刻後、その軒下で彼女は袋のなかの火打石を弄ったまま、思案に暮れていた。

 ――火は焚かないほうがよいかしら。

 獣の出没は怖かったが、さりとて良からぬ人間達に火を見つけられるのも、さらに怖かった。火があれば、川から魚を取って焼くことも出来るし――さすがに川魚を生で食す勇気は、宝余にはなかった――、袋のなかの茸も炙ることができるのだが。

 とはいえ、夜が近づいてきてかなり気温が下がって来ていた。この州は烏翠のなかでも土地の高度はさほどでもないが、夏とはいえ日が落ちるとかなり冷え込む。


 結局、彼女は一か八かで火を焚くことに決めた。何か燃えるものをと思い見回すと、廟の朽ちた建材がいくらか眼に入ったが、まさか神の持ち物を火にくべてしまうわけにはいかない。廟の門外で枯れ枝を拾ってきてから、浅く掘った穴に芋を埋めて枝を積む。その上に宿でもらってきた一束の藁を置き、火打ち石と打ち金を打ち合わせてほくちに移し、付け木に移す。上手くいって火が藁に燃え移ると、宝余ははじめてほっと息を漏らした。


 せっかく手間をかけて起こした火ではあったが、あまり長く焚いていると誰かに見つかるかもしれないので、芋が焼けたころに火を消し、残りの火については、穴に灰を敷いてけた。

 芋を掘り起こし、熱くなった皮をはがすのももったいなく、宝余はそのままかじりついた。瞬間、悲鳴を上げて口から芋を離したのは、そそっかしくも舌を火傷してしまったからである。


「でも……おいしい」


 思わずつぶやいてしまったのは、やっと腹にたまるものを食べることができた安堵感、そして今日も何とか生き延びることができた喜びによるのだろう。

 まだ袋には二本の芋が残っている。しかしそれを含めて、食糧もすぐになくなってしまう。また、何か代わるものを見つけなければならない。


 ――とりあえず、明日のことはまた明日考えましょう。


 一度はぬくまった身体が次第に冷えてくる。宝余は早速、火を消したのは失敗だったかと後悔したが、もう一度火を穴から取り出すのには、何となくためらわれた。朽ちているとはいえここは一応神域であり、他所から来た者があまり好き勝手をするのは、神も良しとするところではないだろう。

 彼女はもう一度堂の敷居をまたぎ、神像を拝して今日の無事を感謝し、あわせて寝所を借りることの無礼を詫びて、つつましく堂の隅で身体を横たえた。


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