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第6話

 



 


「ローラちゃんはまだ部屋に篭っているの?」

「はい。誰にも会いたくないと……」


 お母さまとベルの声が扉越しに聞こえました。夜会が行われたあの日、お姉さまの婚約が決まったそうです。隣国のさる高貴な御方がお忍びで参加した夜会と言うのが、ガーベル家で開かれたものでした。

 そこでお姉さまに一目惚れをして外堀を埋めて断れない状況に追い込んだ挙句、早く国に慣れて欲しいと言って数週間後……とは言っても、もう明日には連れていかれてしまうのです。


 ショックのあまり、ご飯も食べれず部屋に引き篭って誰にも会わないようにしました。お姉さまやお兄さまでさえ拒絶して。


 貴族に生まれたお姉さまもわたくしも、いつかはお嫁に出される事はきちんと理解しているつもりです。けれど、あまりにも早くコトが進んでしまい心の準備をする間もなく連れ去られるようにして行ってしまわれるお姉さまが可哀で、恋しくて、寂しいのです。


(お姉さま……)


「ローラちゃん、いつまでそうしているの?」

「……」

「フローラル。お姉様は明日、隣国へ行ってしまうのですよ。あなたはお別れのご挨拶もしないで部屋に引き篭もっているの?」

「……って」

「後悔しないよう、行動しなさい」

「だって、お姉さまがっ……っく……ひっく……」


 部屋を飛び出し、お母さまの胸へ飛び込み胸の内を詰まりながらも話しました。お姉さまと離れるのが寂しいと。


「お姉さまが、……っく。……居ないと、わたくしは……ひっく」

「そんなに目を擦っちゃダメよ」


(わたくしはこんなにも涙脆かったでしょうか?)


 お母さまは何も言わず頭を撫でながらわたくしの話を聞いてくださいました。いつの間にか傍へきていたお姉さまも一緒に。


「もう……。こんなに痩せてしまって」

「お姉様もローラが心配でお嫁にいけなくなってしまうわ」

「おね、さま……っ。……わた、わたくしと家族じゃ……なくなるの……?」

「いいえ、そんな事はないわよ。ローラちゃん」

「違うわ。ローラ、ごめんなさい。急な事で驚いたのね? 隣国へ行っても私はアナタのお姉様なのよ」

「っ、……ふわぁぁぁぁん!」


 わたくしが恐れていたのは、結婚する事によって家族の絆が切れてしまうと思ってしまったから。お姉さまが「結婚しても家族である事には変わりない」と仰ってくれた事に安心しました。あんなに泣いたのにまた涙が溢れて、一生分の涙を流したようです。


 優しいわたくしの自慢のお姉さま……。やっとわたくしはお姉さまへ「おめでとう」と言うことができました。




 * * *




「ローラ。父さまは少し大切なお話があるから、この国で一番美しいと言われる自慢の庭園を覗いてごらん」

「まぁ! 庭園ですか!? ……ぁっ、はしたない所をお見せしました」

「はっはっは。元気が良くていいじゃないか。自慢の庭だ。楽しんでおいで」

「はい。……それでは失礼いたします」


 スカートを少し持ち上げて覚えたばかりのカーテシーを披露すると、どこか誇らしそうなお父さまが目の端に見えました。わたくしは侍女に庭園への道を聞き、他の方の気を引かないようにそっと静かに出ました。



 今日は王城へ招かれた功労会……いつも支えてくれてありがとう的なパーティーにお呼ばれしています。

 お母さまは体調を崩して寝込んでいます。お医者さまはただの風邪だと仰っていましたが、熱にうなされている姿を見ると胸が苦しくなります。

 お兄さまは王都立学園へ行っているので予定が間に合わず、長女であるお姉さまも隣国へお嫁に行ってしまったので、次女であるわたくしが一緒に行く事になりました。



 あの後すぐに隣国へ嫁いだお姉さまからの手紙は、三年の間にもう何通目か分からない手紙の束がたくさんできるほどやり取りをしています。それこそわたくしの宝箱がパンパンになってしまうぐらい。今ではお姉さまからの手紙が一番の楽しみになりました。

 この間は十歳の誕生日プレゼントに隣国で人気の、色の付いた糸を複雑な模様を描きながら編み込んで繋ぎ合わせて作られた願い事が叶うブレスレットと、隣国の観光地情報や郷土料理の紹介などが書かれた本が届きました。



 ーー親愛なるローラ


 十歳のお誕生日おめでとう。

 あなたの事だから、きっとアクセサリーよりも本の方が喜ぶわね。本を抱えてクルクル回って喜ぶあなたが見えるようよ。

 これを読んでいつかお姉さまが嫁いだこの国へ遊びに来てね。

 お姉さまはいつでもローラを歓迎するわ。


 オーランティア



 まさに本を抱えて一頻(ひとしき)りに喜び回った後で手紙を読んだものだから、お姉さまに全てを見透かされているようで恥ずかしかったです。


 そして……十歳の子供を代わりにって良いのかしらと思いましたが、お父さまのご友人たちに小さな淑女(レディ)と会う度に喜ばれたので良いと思うことにしました。




 




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