第16話
お待たせいたしましたm(_ _)m
よろしくお願いします。
扉を軽く叩く音と一緒に、小柄な男の子と言ってもおかしくないほどの痩せ細った年若い方が恐る恐る入ってきました。“何故呼ばれたのか分からない”といった様子は何の説明もなしで連れてこられて戸惑っているのだと分かりました。
「あ、の……旦那様。お呼びでしょうか……?」
「あぁ。こちらの方から手紙を預かったのはお前か?」
「え……。っ、ガーベル子爵家の……!」
ベルの顔を見た瞬間、今にも倒れそうなほど真っ青になって震えていました。まるで何かに怯えるような姿に、わたくしを含めて呼ばれた方以外の皆が首を傾げます。
「知っているという事は預かったんだな?」
「っ、どうか、どうかお許し……っ!」
「どう言う事ですの?」
「何をそんなに怯えているんだ。言ってみろ」
「も、もも申しわけ……っ」
いきなりガバッと頭を下げ、震えているので話になりません。ヨーグさんとお姉さまとベルからの威圧に耐えきれないようだったので、わたくしが男の方の前に立ち三人の視線を遮りながらゆっくりと話しかけました。
「わたくし達はお話を聞きたいだけなのです。何があったのですか?」
「そ、れは……」
「少しでも、何でもいいのです。話せる範囲でいいので教えて下さいませんか?」
懇願するようにギュッと手を握ると男の方の体が跳ねましたが、構わず手を握ったまま静かにジッと見つめ合うこと数分。落ち着きを取り戻したので手を離すと少しずつ話して下さいました。
「あの日……、手紙を預かった後にある方の使者がお見えになられて……」
「……そんな報告は受けてねぇぞ」
「ひっ……!」
「ヨーグさん」
「チッ……」
怖い顔をして睨んでいたのでお姉さまが窘めてくれました。あんな顔で睨まれたら、恐ろしくて話どころじゃなくなりますもの。
「ある方の使者って誰ですの? ローラの手紙は?」
「やっぱり届かなかったんですね……?」
「やっぱり? やっぱりって言いました?」
……窘めたと思っていましたが、お姉さまが尋問を始めてしまったようです。よく見ると、いつもは柔らかな微笑みを浮かべているのに対して今は無表情になっています。
「どう言う事なのかと説明を求めているのです」
「この度は私どもの不手際で……」
「ヨーグさんは黙っていて下さい。私はそちらの方に聞いているのです」
「ハイ」
「……僕は、僕はしてはいけない事をしました。……っ、申しわけっ」
また頭を下げ謝罪をしようとした男の方を、お姉さまがパッと花が綻んだような笑みを浮かべたまま制しました。
「謝って欲しい訳ではないと言いました。一体何があったのか、ローラの手紙は何処へ行ってしまったのかを聞きたいの。アナタが、何をしたのか……きちんとお答え下さいませね?」
「はっ、はいぃぃぃっ!」
有無を言わせないほどの圧を感じます。わたくしは笑顔である事がこれほど怖いものなのだと初めて知りました。そしてお姉さまは怒らせてはいけない人ナンバーワンになった瞬間でもありました。
* * *
男の方はベニルグスさんと言いました。若い方だと思っていたのですが、二十四歳になるそうです。年齢を言う時は何故かそばかすの散る頰をポリポリ掻きながら恥ずかしそうにしていました。
「趣味は刺繍だそうで〜、その腕前は一流職人も顔負けだとか〜。あ、ちなみに童顔がコンプレックスだそうですよ〜」
「おい、そこまで聞いてねぇよ。てか何でお前まで居るんだ、クリストファー?」
「ヨーグ様がワタシにニスを連れてくるよう言ったんですよ〜? 寧ろ、静かにしていたんですから褒めて下さいよ〜」
グレーを混ぜたような青みがかった金髪に明るめの緑が強い淡褐色の瞳をした、ガルディーノ王国では珍しい容姿の方がベニルグスさんのプロフィールを読み上げています。“刺繍が認められていたなんて”と、本人でさえも知り得なかった情報を教えてくれました。問答無用でヨーグさんの拳骨が振り下ろされましたが。
「……だ、旦那様。数ヶ月前、給料を前借りさせていただいた時の事を覚えていますか?」
「あぁ。母親が病気になったんだろ?」
「はい。僕の実家の母が重い病気にかかってしまって薬代を払うのに借りました。……ですが、どんどん悪くなる一方でそれに比例するように薬代も高くなって……」
目にいっぱい涙を溜めて切々と訴えるベニルグスさんを見ると胸がギュッと苦しくなってしまいます。伏せていた目を上げ、意を決したように真っ直ぐヨーグさんをいえ、わたくし達の方を見ながら言いました。
「ベル様からお預かりした手紙は……公爵様の使者の方へお渡ししました。代わりの手紙も預かり、そのまま配達箱に混ぜました」
「お前っ……! 何て事をしてくれたんだ、この馬鹿がっ!!」
ヨーグさんの怒声が顔色を青くさせて石のように固まるベニルグスさんに降り注ぎます。土下座する勢いでヨーグさん、ベニルグスさん、クリストファーさんの三人が膝をつき、わたくし達に許しを乞いました。
どんどん上がる治療費と薬代に困ったベニルグスさんの元へ、件の使者の方が高額な報酬と共に話を持ってきたそうです。母親を救う為に魔が差したとは言え、信用第一を掲げているヨーグさんにとって、ベニルグスさんがした行為はとても許しがたい反逆行為にも等しいもののはずです。
わたくし達が許してもこのままだとベニルグスさんの未来はないも同じでした。それでは『家族を救う為に』と話を聞いてしまったわたくしには耐えられません。
「ローラ」
「お姉さま……?」
わたくしを見つめるお姉さまの強い意思を持つ瞳に“アナタが決めなさい”と、そう言われた気がします。
「わたくしは……」
誤字、脱字などございましたらご指摘くださいませ。
ブクマありがとうございます( ´∀`)
めちゃくちゃ励みになります!




