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第14話

 



 



 ーー親愛なるオーランティアお姉さま


 お元気ですか? わたくしはあまり元気とは言えません。

 お姉さま、わたくしがセリシア・ヴァイースさまと婚約する事はごぞんじかと思います。ですがわたくしは結婚したくありません。

 次期公爵さまとなられるおかたの妻だなんて、恐れおおくてわたくしにはつとまる気がしないのです。これはお父さまもお母さまにも言っていないのですが、成人したらすぐに旅に出たいと考えています。その為の準備もこっそりとしています。

 さいわいな事に結婚式はわたくしが成人を迎えたおりにと決まりましたので、その前にお姉さまの所でかくまって頂けませんでしょうか?


 わたくしのわがままである事は十分しょうちしております。ですが、家族と離されたうえに知らない土地で屋敷に押し込められて過ごすよりも、自由気ままに色々な国の風景や料理を楽しみその国の人なりを肌で感じたいと思うのです。


 きっと、ガルディーノ王国を出たばかりの頃はおおさわぎになると思います。なので、ほとぼりが冷めるまではお姉さまのいる国を見て回りたいです。お姉さまに頂いた、あの本に書かれていた観光地やきょうど料理を食べ歩きしてみたいです。

 そうしたらお姉さまが好きだとおっしゃった場所へ連れていってくださいませんか?

 くわしい事は別の紙にしるしておきますね。


 フローラルより心を込めて




「手紙は絶対に出したのね?」

「はい。ベルにお姉さまへの手紙だと言って渡しました」

「ベルに聞いてみましょうか」


 そう言うと、近くにあった呼び鈴を鳴らしてベルを呼びました。バタバタ足音がしたと思ったら、扉の前で静かになってベルが顔を出します。


「お嬢様方、お呼びですか?」

「えぇ。ちょっと聞きたい事があるのよ」

「ベル……。少し前にわたくしがお姉さま宛に手紙を預けたのを覚えている?」

「そうですねぇ。お嬢様にしては随分と分厚い手紙だったので覚えていますよ。それがどうかなさったんですか?」

「いつものようにヨーグさんに渡したのよね?」

「大切な事なの。思い出して、ベル!」


 頰に手を当てて、うんうん唸りながら考えていました。ヨーグさんとは我が家が懇意にしている商人です。手広く商売をしていて色々な土地に伝手があり、手紙を持っていけば届けてくれます。商人なので手数料はかかりますが、信用第一を掲げているヨーグさんはいつもきちんと届けてくださいました。


「えぇっと……。あの日はヨーグさんが不在で……。うぅんと、留守の者……名前は忘れてしまったんですが、ヨーグさんへの言付けと一緒に預けましたよ」

「ヨーグさん本人ではなく留守の者ね?」

「え、えぇ。間違いありませんよ。新入りだと話していたと思います」

「分かったわ。ありがとうベル」


 ベルはお姉さまの言葉に頷くと、首を傾げながらも部屋を後にします。

 冷たくなった紅茶を一口飲んで、一度目を閉じてから真っ直ぐわたくしを見つめてきたお姉さまの眼差しに、自然と背筋が伸びました。


「明日、ヨーグさんの所へ行きましょう。留守の者に話を聞けば何か分かるかもしれないわ」

「お姉さま、わたくしも一緒に行きますわ」

「えぇ。ベルも連れて行きましょう。……その前にローラ、アナタに話さなくてはいけない事があるの」

「何でしょうか?」

「……ショックを受けないでね。と、言っても無理だとは思うけれど……」


 いつもはハッキリと物を言うお姉さまにしては珍しく、言葉を濁しながら話始めました。そんな様子からわたくしにとってあまり良い話ではないのだと分かってしまい、震える手をギュッと握り締めました。


「ローラが書いてくれた手紙は私の所に届いていないわ。それどころか、アナタからはセリシアさまと婚約する事になって幸せいっぱいだと書かれた手紙が届いたの」

「!?」


 身構えていたけれど、衝撃の事実を突きつけられて全身からスーッと体温が抜けていくようでした。詰まる息を無理やり吐き出し、ドクドク暴れる心臓を落ち着かせようとします。まさか手紙が届いていないばかりか偽造までされているなんて思いもしなかったのです。


「だから私はお祝いがしたくって、渋るイグナ様を説得してガルディーノに来たのよ。……ローラ。恐らくイグナ様のお力添えがあっても、隣国へ渡って旅に出るのは難しいかもしれないわ」

「お姉さままでわたくしに結婚しろとおっしゃるのですか……?」

「あぁ、そんなに泣かないで。意に沿わない婚約だったのね……。てっきり私はローラも彼の方をお慕いしているものだとばかり……」


 落ち着かせようとしていたけれど、お姉さまに言われるまで泣いていた事にも気付かないほど動揺したみたいです。ショックのあまりポロポロ溢れる涙がお姉さまのドレスに染みを作っていました。本当にわたくしは泣いてばかりで、緩々な涙腺には仕事して欲しいと思います。


 目を擦ろうとするわたくしを止めて、後で赤くならないようにとソッと優しく頰を伝う涙を拭ってくれました。





 




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