第13話
「お姉さまっ。わたくしはお姉さまに会いたかったです……!」
「まぁ、ローラは大きくなっても甘えん坊さんのままね」
「どうしてここが分かったのですか? いつまでこちらに? お義兄さまは?」
矢継ぎ早に質問をするわたくしを窘めるように頭を撫で、一つ一つ質問に答えてくれました。
難色を示すお義兄さまをありとあらゆる手段で説得して、一緒にガルディーノ王国へきたようです。期間は三日。それ以上はあちらの業務に差し支えるそうなので、もっと長く居て欲しいとは言えませんでした。
「ローラが屋敷に居ない時は此処だって昔から決まっているのよ」
「決まっているのですか?」
「えぇ。だってアナタは飽きるまでずーっと街を見ているのだもの。何度私が呼びに来たと思っているの。……さ、風が冷たくなってきたわ。屋敷へ帰りましょう」
「はい」
暖かくなってきたとはいえ、陽が落ちると肌寒くなります。お姉さまの温もりに包まれて冷たくなった指先がじわじわと温かくなってきて嬉しくなりました。指だけではなくて、心もぽかぽかとしてくるよう。
手紙のやり取りをしているけれど、文字だけよりもこうして目の前に居るのとは全然違いますもの。
(それに、わたくしの逃走計画の意見も聞きたいし。いつ切り出そうかしら?)
「ローラ、考え事をしながら歩くと危ないわよ」
「すみません。……お姉さま、相談したい事があるので後でお時間いただけませんか?」
「相談?」
「はい。ここではちょっと言いにくいので、わたくしのお部屋にいらしてくださいませんか?」
「何かしら? 分かったわ。それならローラの部屋で食後のお茶にしましょう」
「ありがとうございます!」
そんな話をしているとあっという間に屋敷に着いてしまいました。庭の東屋ではお兄さまとお義兄さまが談笑していて、わたくし達に気付くと足早に駆け寄ってきました。
「遅いから迎えに行こうかと話していた」
「まぁ、心配性ね」
「ティアが美し過ぎるから心配になるのは当然だ」
「っ、こんな所で何をっ。っん、ローラもサースも居る、のにっ」
「ティアに触れたら我慢できる訳ないだろう?」
「もう、やめ……っ!」
お義兄さまはお姉さまの腰を抱き込み、頰と唇に軽いキスを落としました。真っ赤になるお姉さまと蕩けた眼差しのお義兄さまの関係が良好だと分かりましたが、お子ちゃまのわたくしには目に毒でしかありません。お兄さまの手が素早く隠してくれなかったら目のやり場に困っていたでしょう。
それでもお姉さまの途切れ途切れの抗議の言葉が聞こえてしまうので、ナニをされているか想像できてしまうので、ドキドキする事には変わりありませんが。
「イチャつくなら部屋でやってくださいよ。相変わらずですね、義兄上」
「ふん、お前も早く結婚すれば良い」
「生憎とまだその予定も相手もおりませんので。妹の前では控えて頂きたい」
「……そうだな。フローラル嬢、すまなかった」
「い、いえ。その……お久しぶりです。イグナお義兄さま」
何とか笑顔を作って返す事が出来ましたが、お姉さまの頰が上気していて居た堪れなくなりました。それに……何故かイグナお義兄さまのお姉さまを見つめるあの眼差しが、わたくしを見つめるセリシア・ヴァイースさまと重なって怖くなりました。
「ほう……。綺麗になったな」
「いえ、そんな」
「謙遜する事はない。そうだ、遅くなったが婚約おめでとう」
「……ありがとうございます」
お義兄さまからの“おめでとう”はズッシリとわたくしに重く伸し掛かってきました。お姉さまに会えて浮き上がった気持ちが空気の抜けた風船のように萎んでいきます。
そんなわたしの気持ちを察してくれたのか、お姉さまに促されて皆で屋敷へと戻りました。
* * *
久しぶりに家族皆が揃った晩餐はとても楽しいものとなりました。いつもより少しだけ品数が多くて、細工の施された豪華な料理につい手が伸びてしまい、たくさん食べ過ぎてしまいました。
「またコック長の腕が上がったみたいね」
「それを聞いたらあの人も喜びますよ。オーランティア様が嫁いでいった後は落ち込んでいたんですがね、またこちらに帰ってきた時は食べて頂くのだと張り切っていたんですよ」
「まぁ、嬉しいわ」
「ベル。もうここはいいから、後はわたくしに任せてお姉さまを返して」
お茶を持ってきたベルがずっとお姉さまと話していたので、我慢できずに追い出しました。わたくしもお姉さまと話したいのに、ズルいです。
「追い出さなくてもいいのに」
「ベルはあのままだとずーっとお姉さまから離れませんわ」
「ふふ、そうね。お喋りが大好きだものね」
二人で顔を合わせて笑いました。
熱めの紅茶を淹れ直して一息つき、本題である手紙の事を聞きました。
「え、手紙?」
「はい。届いていない、のですか? わたくしの逃走計画を書き出した物なので、かなり厚くなった手紙だったのですが……」
「ちょっと待ってローラ。逃走計画? どういう事なの?」
ほぼ手紙に書いた内容を話すとお姉さまは頭を抱えるようにうずくまり、青い顔色のままわたくしを抱き締めました。




