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第10話

 

お待たせいたしましたm(_ _)m


 


「やぁ、やっと会えたね。可愛い小さなお姫様。今度は君の口から名前を教えてくれるかい?」

「……っ、天使さま……?」

「ふふ、天使は君の方だよ。可愛らしい姫」

「きゃぁ!?」

「っっ、娘をお離し下さいっ」

「これっ、セリシア!!」


 流れるようなキスを手の甲へと落とし、そのまま抱き上げられてました。ずっと蕩ける眼差しで見つめられて、どうする事もできないまま固まりました。

 もう、わたくしの頭では何がどうなってこうなったのか理解できないです。


「……お、降ろしてください」

「座りたい? じゃぁ、私の膝の上へおいで」

「セリシア!!!」

「っっ」

「……父上。そんなに大声を出しては(愛しい人)が驚いてしまうじゃないですか」


 父上と言ったから親子なのだと分かりましたが、整った顔立ちには深い皺が刻まれて険しい顔で天使さまをすごい目で睨んでいます。

 ……本当にどうしてこうなったのか全くもって理解できません。




 * * *




「お嬢様、今日のお茶はどうしますか?」

「いつものをお願い」

「少し蜂蜜を垂らして甘さを加えましょうか?」

「えぇ。お願いするわ」


 今日は家族のお茶会は中止だそうです。何でもお父さまにお客さまだとか。わたくしは一人でいつもの場所でお茶を飲み、街で流行っているという恋愛メインの本を楽しんでいました。


「お嬢様」

「ベル? そんなに怖い顔でどうしたの?」

「旦那様がお呼びでございます」

「お父さまが?」


 今はお客さまとご一緒のはずだけれどと、首を傾げましたが呼ばれたので行くしかありません。もしかしたら、お客さまはお城で会った事のあるご友人の方かもしれないと足早に応接間へと向かいました。



「……入りなさい」

「失礼致します」


 ベルがわたくしを連れてきた事を告げると、少し硬い声で入室の声がしました。その声だけでもお父さまの様子がおかしい事に気がつきましたが、静かに応接間へ入ります。

 真っ先に目に飛び込んできたのは二対の綺麗な金色の髪の後頭部。次に気づいたのはテーブルを挟んで反対側へ座るお父さまの強張った顔でした。


「お父さま……?」

「ローラ、ご挨拶なさい」

「は、い?」


 お父さまの元へ歩いてお客さまの方へ向いた時には既にキラキラしい笑顔で手を握られていました。


(あの、薔薇園で会った天使さま……?)


 と、思った時にはそのまま言葉に出ていました。甘い言葉を言いながらわたくしを抱き上げてしまいます。焦るお父さまともう一人の方が眉間に深い皺を作ってこの方の頭を叩き、引き離してくれました。


「お前と言う奴は、御令嬢になんたる無礼を……!」

「我が婚約者を抱き上げて何が悪いでのです」

「またお前は……!!」


 明らかに青筋を立てて、今度はグーで殴りました。とっても痛そうです。


「その、まだ了承したわけでは……」

「ガーベル子爵、我が愚息が申し訳ない……。少し宜しいか」

「はい。……ローラ、彼に庭を案内してあげてくれるかい?」

「わ、分かりました」


 大事な話があるのだと、暗に言われ素直に天使さまを庭へ案内しました。



 ガーベル家でわたくしが一番好きな場所をと言われたので、東屋へ連れて行く事にしました。今なら木に細かく咲く小さな淡いピンク色のお花が見頃だったはずだと。

 二人きりにはなれないので、少し離れた所にベルが待機していました。


 東屋へ行くと思った通りの光景が目を楽しませてくれます。濃い緑の中に淡いピンクの花が色鮮やかに咲いて、色違いの黄色いお花も咲いていて自然と笑みが浮かびました。


「こちらがわたくしの一番好きな場所ですわ」

「ん。綺麗だね」


 気に入ってくれたかしらと天使さまの方を盗み見れば、庭を見ているだろうと思っていたのに真っ直ぐわたくしを見つめていてびっくりしました。


「あ、あの……?」

「ふふ、可愛い人。いつになったら名前を教えてくれるのかな?」

「っ、失礼いたしました。フローラル・ガーベルと申します」

「やっと君の名が呼べる。ね、ローラと呼んでも?」

「そ、それは……」

「駄目かな?」


 いきなり初対面……ではないけれど、それに近い方に愛称を呼ばれるのは困ります。返事をする事ができずにモダモダしていると察してくれたようで提案されました。


「困らせてしまったかな……。じゃぁ、もっと私に慣れたら呼んでもいい?」

「……はい」

「ありがとう。フローラル嬢」

「っ!」

「名前は許して。ね?」


 耳元で甘く名前を呼ばれて腰が抜けるかと思いました。頰にかかった天使さまの吐息がくすぐったくて暴れ出した心臓が口から出そうです。


「あの、天使さま、の……お名前は……?」

「困ったな。天使じゃないのだけれど。私はセリシア・ヴァイース。セリシア、と呼んで」

「っ、それはできません」

「慣れたら、そう呼んでくれるかい?」


 ヴァイースさまは首を傾けながらそう言いました。断ろうにも有無を言わせない雰囲気の中、わたくしには頷くしかありませんでした。




 




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