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この夕日の輝きを曲にできたら、それが一番すごいことかもしれない

僕らはそれぞれの課題を抱えて閉館時間まで粘り、図書館のエントランスに立った頃には陽光は和らいでいた。それにヒグラシの声が添えられるとこの瞬間だけは現実逃避したい気持ちになる。整いすぎた顔に小柄だけれども身体のバランス美も完璧な、存在そのものが現実逃避を具現したような米田さきさんが、全員の声なき願望を発してくれる。


「え、と・・・全部で9人ですね。ファミレスでも行きましょうよ!」

「お、いいね! 行こう!」


武藤がほぼ同時に同調する。


「ねえ、咲ちゃんは?」


杉谷もほぼ間髪を入れずいつもの調子で発言する。


「もちろん行くでしょ? ね、咲ちゃん!」


咲はさきさんの願望は極力叶えてあげようという主義のようだ。ただにっこりと笑みをこぼしたのが返事だった。


ぞろぞろと歩きながら、なんとなく咲と僕が最後尾で2人並んだ。


「ねえ、咲」

「なに?」

「ekもそうだし、ブレイキング・レモネードもそうなんだけどさ。自分の足で歩いたり自転車だったりで街の風景を感じる人たちだろ?」

「うん。どっちもそういうことを大事にしてるバンドだね」

「今のさ、この夕日を切り取って僕が詩を作ったら、それってなんだか胸に染みるんじゃないかな、って気がするんだけど」

「うん・・・この夕日、確かに見てるだけで切ない」

「咲もそうして曲を作ってきたんじゃないの?」

「・・・そうかもしれない」

「前にさ、新井さんと話した時にさ、室田くんはサラリーマンで詩人でもいいって」

「なにそれ」

「詩人の心でもって営業するサラリーマン。サラリーマンでありながら、僕の本質は詩人」

「ふ。新井さんて、素敵だね」

「咲。僕は咲の曲が好きだよ」

「・・・ありがとう」

「咲がどういう立場にあっても、咲の作る曲が咲の本質なんだ。将来とかなんとかだって、全部その中に既に織り込まれてる」

「・・・そうかな」

「僕は咲の曲に、もう救われてるよ」

「・・・室田」

「うん」

「わたし、室田に会えてよかった。それから、新井さんにも」

「なんだよ、急に」

「室田も、新井さんも、すごくいいよ。いつか2人の曲、作ってあげるよ」


なんだか僕は胸のあたりがくすぐったくなった。咲と僕の前を歩く新井さんを斜め後ろから見ると、夕日の逆光に光る頰のうぶ毛と、それ以外にきらっと輝く水滴のようなものが見えた。



おしまい

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