5.物知りリウウ
森を抜けて岩場を越えて、また森の中を歩いていると、一軒のおうちを見つけました。
大きな木の下に子どもが通れるほどの小さな扉。木の中に家を作っているようです。
「物知りはいるか?」
サーが中に向かって声をかけます。
すると、バサバサ。何かが木の上から降りてきました。
「物知りといえば物知りだけれど、君たちの名前も知らないから、そんなに物知りではないかもしれないよ」
ふふふ、と楽しそうに降りてきたのはコウモリのような羽をはやしたバケモノ。ギョロリとした目がひとつだけ。顔の真ん中でキョロキョロと動いてサーとエミーを見ています。
「ぼくはリウウ。何かごようですか?」
見た目は怖そうなバケモノですが、優しい声と丁寧な言葉にエミーはほっとしました。隠れていたサーの背中から顔を出します。
「私はエミー。この子はサーだよ。森のたからものを探してるの」
「宝物?」
バサバサと風を起こしながら、ギョロリ目のバケモノはサーたちを家の中へ招き入れました。部屋の中には、壁いっぱいに本が並べてありました。
「宝物はね、キラキラしていて、とてもきれいで、とても大事なものなの」
「ふむ」
リウウは大きなギョロり目をくるんっと回して考えます。
「森は宝物でいっぱいだからね。どれが君にとっての一番なのか、それは僕にはわからないよ」
「宝物でいっぱいなの?!」
リウウの言葉に目をキラキラとさせるエミー。
それを見て、リウウは喉をくるくると鳴らして笑いました。
「そうだね。例えば、僕の宝物は壁いっぱいに集めた人間の本だよ。知らないことが知れるし、なにより人間の考えは面白いからね」
「そんなの」
「君の一番じゃなかっただけだよ」
宝物じゃないと否定しようとしたエミーを、リウウはすかさず遮りました。これは僕の宝物だからね、とリウウは言います。
宝物とは、キラキラしていて誰が見ても素晴らしいものだと思うエミーには、リウウの言葉は難しくて、よくわかりませんでした。
「ここまで来たのに何もわからないのか」
サーがエミーとリウウのやり取りを見てため息。
わざわざエミーを運んでやったのに、物知りは何も知らないし疲れただけだとぼやきます。お腹もすきました。
それを見てリウウがはて?と首を傾げます。
「ところで君は小鬼なのに、どうして人間と一緒にいるんだい?」
「宝物を見ようと思ったんだ」
サーは森の奥でひとりで暮らしていたけれど、エミーの話を聞いて宝物を探すことにしたのだとリウウに話しました。それを聞いてリウウはびっくり。森の小鬼が人間の手伝いをするなんて聞いたこともありません。
「宝物の場所がわからないなんて……どうしよう……」
宝物の場所がわからないと聞いて、エミーは我慢していた涙が一気に溢れました。家に帰りたい気持ちはあるけれど、このまま家に帰ってもまたいじめられる毎日が続くと思うと不安に押しつぶされそうでした。
「もう家に帰れ。道ならリウウが知ってる」
「そんなの!またいじめられちゃう……」
そんなことで悩むなんて。とサーがエミーを小馬鹿にするように笑います。その言葉にエミーが怒り出します。
「友だちもいたことがないサーには、ひとりでいたサーには分からないよ!!!ひとりぼっちがどれだけこわいかなんて……!」
サーには何もわからないよ!と泣きながら言うエミーの言葉に、サーはなんだかお腹の中がぐるぐるとするような嫌な気持ちになりました。
思わず「なんだと!」と声を荒らげてしまいます。
それを見たリウウ、楽しそうに喉をくるくると鳴らしました。
「ひとりぼっちの小鬼が、人間のためにこんなところまで来るだけでも驚きなのに。君はいま怒ったの?」
「怒る?」
「なんだかぐるぐるとした、お腹の中がモヤモヤするような気持ちを、怒るっていうんだよ」
リウウは、サーの感情について説明しました。
いままでひとりで生きていたサーには、怒るなんて初めて。怒っていたことも忘れて、これが怒るなのか。とふむふむ納得しています。
「いままで感情を知らなかった小鬼が、それを知っていくのを見るのは楽しそうだ。なにより、ぼくも森の宝物は気になるな。」
ふふふ、とリウウは笑って一緒に旅をしてくれることになりました。